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日立が編み出した絶縁層で分圧する仕組み

 EVの電池電圧を倍増する上で重要になるのが、800V対応部品の絶縁性能を高めること。耐性が弱いと放電が生じて、部品の破壊につながりやすくなる。

 日立製作所と日立オートモティブシステムズが世界に先駆けて共同開発した800V対応インバーターは、中核のパワーモジュールに工夫して、コスト増を抑えつつ絶縁性能を高めた(図2)。体積の増加を極力抑え、高電圧化と相まって出力密度を94kVA/Lと従来比で2倍にできた。

図2 日立グループが開発した800V対応インバーター
図2 日立グループが開発した800V対応インバーター
多くの部品を見直し、絶縁性能を高めた(出所:日立グループ)
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 パワーモジュールの構成は、パワー半導体であるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とアルミニウム(Al)合金製の放熱フィンの間に、樹脂にセラミックフィラーを充填した絶縁シート層を配置するものになっている。

 電圧を倍増した上で絶縁層の放電破壊を防ぐには、単純に考えると絶縁層の厚さを2倍にする必要がある。ただ絶縁層を厚くすると、今度はIGBTの熱が逃げにくくなる課題が生じる。日立グループは絶縁層中に「中間導体」を設ける手法を新たに開発し、絶縁層の厚みを従来の400V対応品と同等にして放熱性能を維持しつつ、放電破壊を防いだ(図3)。

図3 絶縁層に中間導体を設けて分圧
図3 絶縁層に中間導体を設けて分圧
絶縁層の厚みを従来と同等にしながら、絶縁破壊を防げる。日立グループの資料を基に日経クロステックが作成
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 絶縁破壊は、絶縁シートの製造過程で生じがちな「ボイド」と呼ぶ小さな空隙(くうげき)によることが多い。IGBTで直流電力をスイッチングすると、絶縁層に交流電界が印加される。するとボイド内の空気層で絶縁破壊して、部分放電が発生することがある。その熱で絶縁シートの劣化が進行し、最終的にIGBTの絶縁耐圧を低下させてしまう。IGBTにかかる電圧を倍増すると、ボイドに印加される電圧も2倍になるわけで、絶縁破壊が生じる確率は高くなる。

 日立グループは絶縁シート中に中間導体として10μm以下の薄い導体箔を配置することで、絶縁シートにかかる電圧を導体箔で分圧した。絶縁層にコンデンサーを追加したイメージである。導体箔で分圧することで、ボイドにかかる電界を半分に抑えられる。絶縁シートの厚さを従来と同程度に維持しつつ、部分放電を防げるわけだ。

 導体箔の材料は一般的な銅(Cu)とみられ、しかも薄い。「コストの増加は抑えられる」(日立製作所研究開発グループ制御イノベーションセンタ主管研究長の中津欣也氏)という。

 IGBTには、耐圧1200V品を採用した。商業用で交流500V前後の国や地域を中心に広く普及しているもので、従来の600V耐圧品と比べて「コストに大差はない」(中津氏)。より高耐圧なものには1700V耐圧品と3300V耐圧品があるが、生産量は少なめで、コストが高くなりがちだ。ポルシェがEVの電圧を800Vにとどめて、1kV超にしなかったのは、IGBTのコストを意識した可能性がある。

 日立グループは、パワーモジュール以外の部品にも多く手を入れた。例えばゲートドライブ回路やバスバー、平滑用キャパシター、EMCフィルター、急速放電回路といった部品については、部品内部のフィルムの高耐圧化など素材から見直したとする。