北陸先端科学技術大学院大学の研究チームは、花粉を含んだシャボン玉をドローンから飛ばして人工授粉させる技術を開発している(図1)。既に、シャボン玉で人工授粉させる実験には成功しており、手作業による人工授粉と比較して受粉・結実する割合を同程度としつつ、「花粉量を3万分の1に削減できる」(同先端科学技術研究科准教授の都英次郎氏)という。ドローンを併用すれば、農業現場の人手不足を解決する手段となりえる。
近年、花粉を運ぶミツバチなどの昆虫が減少しているため、手作業による人工授粉の需要は高まっている。しかし、膨大な数の花に手作業で受粉させるのは大きな手間がかかり、一方で農業における人手不足は深刻だ。「手作業でなく自律型ドローンを使うことで、人がいなくても人工授粉できる未来を目指したい」と都氏は力強く語った。ドローンとシャボン玉を組み合わせた研究はこれが世界初となるという。
シャボン玉で花を傷つけず授粉
都氏は2017年にまず、超小型ドローンを使った人工授粉に挑戦した。ドローンの底面にコーティングした粘着質のゲルに花粉を付着させ、花に接触させるという方法だ。ミツバチなどが花粉を運ぶように人工授粉できる。この実験では授粉には成功したが、ドローンが近づきすぎるため、姿勢によってはドローンのプロペラが花に当たって傷つけてしまうという課題があった。そこで考案したのが、シャボン玉で花粉を運ぶ方法だ。「息子がシャボン玉で遊んでいるのを見て、解決策を思いついた」と都氏は明かす。花粉を混ぜたシャボン玉を飛ばせば、ドローンを花と接触させる必要がないので安全に人工授粉できる。
同氏とシー・ヤン氏らの研究グループはまずドローンを使わず、ナシの果樹園で花粉を混ぜたシャボン玉を花に向かって吹き付けたところ、95%の結実率(受粉後実がなる確率)が確認できた。これは手作業での人工授粉で主流となる梵天(ぼんてん、羽毛の棒)を使う方法と同程度の確率になる。この方法と比較して花粉量は「3万分の1」(同氏)であるため、コストの大幅削減も期待できる。
都氏らはシャボン玉での実験に成功した後、市販のシャボン玉製造機を取り付けた小型ドローンによる実験に取り組んでいる(図2)。授粉時期ではなかったため、ユリの造花を一列に並べ、その上をドローンがシャボン玉を散布しながら上空を通過するという実験だ。ドローンはGNSS(全球測位衛星システム)によって事前に設定した経路を自律飛行する。この際、花の上空2mを時速7kmで安定飛行することで、「90%の確率でシャボン玉を造花に当てることに成功した」(同氏)。
今回の実験でドローンに設置したシャボン玉製造機は、毎分5000個のシャボン玉を排出する能力を持つ(図3)。空中に排出されたシャボン玉はドローンのプロペラが生み出す下向きの空気流によって花に向かって移動する。さらに、ある程度の速度をもって移動するため、雌しべに接触した際に割れやすくなるという。