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 電波の反射を利用して地上を観測する合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)衛星を手掛ける人工衛星ベンチャーのQPS研究所(福岡市、大西俊輔社長)は九州電力と、人工衛星の観測データを活用した共同事業の検討に入る。2020年5月27日に事業検討のための覚書を締結した。

QPS研究所代表取締役CEO(最高経営責任者)の大⻄俊輔氏
QPS研究所代表取締役CEO(最高経営責任者)の大⻄俊輔氏
(出所:日経クロステック)
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 新事業の具体的な内容は固まっておらず、あくまで覚書を締結した検討段階。いわば事業連携の試運転にすぎない。しかし、この2社の連携試運転はQPS研究所、ひいては日本の宇宙ベンチャーにとって決して小さくない意味を持つ。

夜でも悪天候でも、災害発生時でも設備を短時間で点検できる

九州電力が示す2030年に手掛ける事業のイメージ
九州電力が示す2030年に手掛ける事業のイメージ
九州電力グループは現在も都市開発やまちづくり、ICTサービス事業を手掛ける関連会社を抱えている。こうした関連事業を拡大し、イノベーションを起こすために、SAR衛星の観測データを活用するための可能性を探る。(出所:九州電力)
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 SARはレーダーを使って地表を観測するシステム。広範囲を短時間で観測できる衛星観測の利点に加え、衛星から発した電波で地表を照射し、その反射波で観測するので昼夜を問わず使える。電波は雲を透過するので、天候にも左右されない。可視光や赤外線の反射光を観測する光学衛星と異なり、24時間、地表に日の差さない深夜でも、雲が垂れ込めた悪天候でも地表を観測できるのが特徴だ。

SAR衛星の観測手法
SAR衛星の観測手法
SAR衛星はアンテナから地表へ向かって電波を発射。その反射波を受信して地表をスキャン(撮像)する。電波は雲を透過するし、SARが放射する電波の反射を撮像するので夜と昼とを問わない。(出所:日経ものづくり)
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 九州電力はこうしたSAR衛星の利点に着眼し、まずは保守管理業務への活用の可能性を探る。同社エネルギーサービス事業統括本部企画・需給本部イノベーショングループの弓削均課長は、「SAR衛星の観測データで設備の保守管理の効率化を図りたい。どの設備の保守管理に使えそうか、社内の各部門にヒアリングしている。発電所や鉄塔などは確実に候補として出てくるだろう」と話す。

 人里離れた場所にある送電線や鉄塔、発電所などの保守管理のために現在は、人が現地に赴き、目視や計測で必要なデータを収集している。最近は、ドローンの活用にも取り組んでいるものの、現地近くまで行く点では同じだ。SAR衛星のデータで設備の変化や異常をある程度検知できれば、人を現地に送らずに済み、大幅に業務を効率化できる。

QPS研究所が運用予定のSAR衛星コンステレーションのイメージ
QPS研究所が運用予定のSAR衛星コンステレーションのイメージ
36機のSAR地球観測衛星を同時に運用し、高頻度で地表を観測する「地球観測衛星コンステレーション」を構築する。(出所:QPS研究所)
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