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 三井物産は2020年6月から東京・大手町の新本社を本格的に稼働させた。新本社への正式な移転日は2020年5月7日だったが、東京都は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言のまっただ中にあったため、社員が出勤し始めたのは6月からだった。現在は業務特性に応じて出社とテレワークを併用している。

 「先が読めない時代を想定して新本社のコンセプトを作った」と鈴木大山・人事総務部Work-X室長は話す。Work-XとはWorkplace Experience(職場体験)の略だ。どんな職場体験を提供するかが新しい働き方を設計することにもなると同社は考えた。コンセプト作成時に感染症の大流行を見越していたわけではなかったが、結果的に新型コロナにも対応しやすい働き方の提示にもつながったという。

偶発的な出会いと自発的なコミュニケーションを生む

 「おお、久しぶり!」がたくさんあるオフィス――。鈴木室長は新本社のコンセプトをこんな言葉で表現する。たまたま以前の職場の同僚とばったり会い、情報交換する中でビジネスのアイデアをもらったり、協力して新しい取り組みをできないかといった話で盛り上がったりする。「新しいことをやるのが商社の使命だ。社員同士や社外の関係者との偶発的な出会いや自発的なコラボレーションがオフィスの中でたくさん生まれるようにすることで、新たな価値創造につなげたい」(鈴木室長)。こうした思いで新たな職場体験を設計したという。

 多くのオフィスは部署ごとに割り当てられた執務スペースがあり、社員個人の席はたまに席替えがあるとしてもほぼ固定している。打ち合わせは会議室で実施する。客先への訪問などの外出を除けば、通常業務は自席と会議室の往復になりがちだ。

 新本社では机と椅子が並ぶいわゆる執務スペースを「スタジオ」と呼ぶが、全体の社員数に対して70%程度の席しか用意していない。部署ごとの執務スペースは決めるが、個々の社員の席は特定しない。「旧本社でデータを取ったところ、着席率は全社平均で5割程度だった。予備の席も含めて従来は社員数より多めに席を確保していたが、もったいないと考えた」(鈴木室長)。

デジタル専門人材が常駐する場

 資料や私物を入れるためのロッカーを全社員分用意し、部署ごとに定めたエリア内であれば席は自由にしている。2時間以上、席を離れる場合には荷物を片付けることを推奨している。部長以上には固定席を用意するが、自由席に座って部署の若手社員と時折会話しながら仕事する執行役員や部長もいるという。空間の節約だけではなく、部署内のコミュニケーションも生まれやすくなった。

ソファなどが置かれ自由闊達に意見交換を行う場
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ソファなどが置かれ自由闊達に意見交換を行う場

 スタジオが全エリア面積の3分の2程度を占めるが、残りの3分の1程度はコミュニケーションと執務のためのエリアとし、「キャンプ」と名付けた。キャンプは13階分ある執務フロアで両脇をスタジオに挟まれ、内階段で行き来できる。ソファなどが置かれ自由闊達に意見を交換する場、テーブルと椅子が置かれプロジェクト単位で小中規模の議論をする場、机と椅子からなるブースが多く並ぶ戦略やアイデアを練る場の3種類をそれぞれ4フロアずつ設置している。