デンソーが各地の工場を結ぶシステム「Factory IoT」の展開を進めている。同社が製造する自動車部品は実にさまざまで、各工場にある設備も多様。そこから出てくる多種多様なデータを集めて、品質向上や現場のカイゼンを進めるのがFactory IoTの狙いだ。世界130の工場を結ぼうというプロジェクトの規模もさることながら、IoTの鍵になるデータ収集の仕組みを構築するのにアジャイル開発を採用したことも注目を集めている。同社生産革新センター生産技術部 F-IoT室開発課課長の矢ヶ部弾氏、パートナーとしてプロジェクトを支えたクリエーションライン(東京・千代田)代表取締役社長の安田忠弘氏にその狙いを聞いた。
デンソーに限らず、製造の現場では徹底した合理化、効率化が敷かれている。ただ、従来の合理化はワークフローの工夫であったり、ある種のメソッドを取り入れたりと、どちらかというと「物理的なやり方」が中心。そこにITの力を取り入れるというのが、Factory IoTプロジェクトの始まりだった。
例えば、スマートフォンはカメラやGPSの他、加速度や磁気、ジャイロ、環境光、近接などさまざまなセンサーを搭載しており、持っているだけでいろいろな情報を取り込んでいる。スマートフォンのアプリケーションはそれらの情報を使って、サービスを提供する。同様に、工場のさまざまな機器からデータを取り、蓄積し、それをプラットフォームに取り込んだ上でいろいろなアプリを作ってカイゼンに役立てるのがFactory IoTの目的だ。
スマート工場に必要なのは"カイゼン"力を生かす仕組み

「製造ラインを動かすための機械、センシング・ウエアラブル機器、タブレット端末など、いろいろな機器・デバイスのデータをため、品質不良解析に使ったり、設備を止めないための要因を探ったりします。同時に現場への情報通知を行うアプリや、システムに蓄積された情報を利用して、アプリを現場で容易に作れるようなプラットフォームを整備し、それを世界130の工場に展開するというプロジェクトです」。Factory IoTについてデンソーの矢ヶ部氏はこう説明する。
そもそも、デンソーには1957年に始まった「発明改善提案制度」以来、製造現場に改善提案活動が根付いており、現在も年間およそ19万件の提案が出されているという。「発明改善提案書」に日々の業務で改善できそうなこと、改善したことを記入し提出すると、評価に応じて会社から報奨金が出る。まさに、これをソフトウエアの世界で実現しようというわけだ。
製造現場でのアプリ開発環境をプラットフォーム化し、データへのアクセスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で整備することで、カイゼンに必要だと思えば、必要なアプリを現場のエンジニアがすぐに作れるようになる。他の工場のデータを組み合わせれば新たな製品やサービスの開発につながる可能性もある。システムをリリースした今、そこを目指して工場データの収集を始めたところだ。