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 国内の在住者に1人10万円を支払う特別定額給付金を他人になりすまして詐取する事件が石川県で発生した。オンライン申請にはマイナンバーカードが必要にもかかわらず、他人をかたって申請ができていた。

 しかもなりすまし被害に遭った人はマイナンバーカードを取得しておらず、カードが盗まれて悪用される状況にもなかった。事件は現在も捜査中だが、犯人は自らのカードなど適当なマイナンバーカードを使ってなりすましたと見られている。

 本人であることを証明するマイナンバーカードを必要としながら、なぜ他人をかたったオンライン申請が可能だったのか。今回の事件は定額給付金のオンライン申請が抱える課題を改めて浮き彫りにした。

10万円の特別定額給付金に使われたぴったりサービス
10万円の特別定額給付金に使われたぴったりサービス
出所:内閣官房
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オンラインと書類の両方でなりすまし

 事件が最初に報じられたのは2020年7月7日。石川県能登町に住む60代の男性と家族4人を合わせた5人分の給付金を、何者かがこの男性になりすまして申請した疑いで、警察が捜査を進めているというものだ。能登町は偽って申請された口座に5人分の給付金を既に振り込んでいた。一方で、被害男性も2020年5月に能登町が郵送した書類を返送し、家族5人分の給付を申請していた。しかし給付金がなかなか支給されず、町に問い合わせたことから事件が明るみに出た。

 捜査関係者によると、偽の申請は2020年5月に書類返送とオンラインの両方で出されていたという。能登町は「捜査中の事件に関わること」(総務課)として、それぞれの申請の審査過程について公表を避けている。

 石川県警珠洲署は2020年7月8日、名古屋市在住の50代の男を容疑者として逮捕した。能登町の男性が返送した申請書類を不正に取得し、改ざんしたうえで給付金を詐取した容疑だ。男は容疑を否認しているという。現時点の容疑は書類の改ざんによる給付金詐取に限られているもよう。なりすましのオンライン申請と書類の改ざんが同一犯かどうかはまだ固まっていないと見られる。

 今回の給付金詐取は、なりすましのオンライン申請がなくても、書類改ざんだけで実行できていた可能性もある。能登町に住む被害男性と容疑者は同姓同名だったとの情報や、郵便局には被害男性をかたった偽の住所変更届けが出されていたとの報道もある。警察は書類を不正に入手した手口などについて、慎重に捜査を進めている。

 何者かが被害男性になりすましてオンライン申請したことは事実だ。審査した地方自治体はオンライン申請の不正に気付けなかった。問題はなぜマイナンバーカードを持たない人になりすまして申請ができたかにある。

オンライン申請、送信時に本人確認はせず

 特別定額給付金のオンライン申請には、マイナポータル上で提供される「ぴったりサービス」を使っている。地方自治体の各種手続き申請に使われている汎用的なサービスである。

 利用者はログインが不要なWebフォームに各種情報を入力し、マイナンバーカードの電子署名を付与して申請内容を送信する。今回の定額給金向けの申請フォームでは、申請者や世帯主、給付を希望する家族に関する情報と、銀行口座情報などを入力する。

 犯人は給付金のオンライン申請がマイナンバーカードを必要としながら、データの送信時点では申請者の本人確認をしない点を突いた。申請者とカード所有者の情報が一致しなくても、フォームを入力して送信できる仕様になっている。本人確認は申請データをダウンロードして審査する地方自治体に任されているからだ。