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 小中学校の全生徒に1人1台のパソコンを整備する「GIGAスクール構想」政策で、教育市場におけるパソコン(PC)やタブレット端末のOS別シェアが大きく変動しそうだ。これまでのWindows搭載機の独占が崩れ、米グーグルのOSを搭載したChromebookや米アップルのiPadを導入する小中学校が大きく伸びる見通しであることが、日経クロステックの取材で明らかになった。

 文部科学省が公表したGIGAスクール向けの「標準仕様」では、Windows PCに加えてChromebookとiPadも「推奨」として候補に挙げている。端末を選ぶ地方自治体への取材などを基に日経クロステックがまとめたところ、ChromebookがWindowsに迫る支持を集め、iPadも低学年向けを中心に人気が高いことが判明した。

 端末市場を調査しているMM総研の中村成希執行役員研究部長は「Chromebookはおよそ3分の1、iPadも2割前後のシェアを獲得する可能性がある」と指摘する。中村部長は、Windowsは台数ベースで首位を守る公算が大きいものの、シェアは半数割れの可能性があるとみる。これまでWindows PCは文教市場で独占に近いシェアを維持し、教職員も使い慣れていた。その強みがGIGAスクール商戦でも生きると予想する関係者が多かったが、これが覆された格好だ。

27万台調達の横浜市は非Windowsへ

 GIGAスクール商戦におけるChromebookやiOSの人気を象徴するのが、小中学校を合わせて約27万台を一気に調達する横浜市の方針だ。同市は2020年6月22日、GIGAスクール向けの端末調達の方針を発表。小学校向けの約19万台はiPadを、中学校向けの約8万台はChromebookを採用する採用する方針を公表した。2020年内にメーカーの入札や選定を行い、2021年1〜3月に学校に配備する予定だ。

 東京都は島しょ部を含めて62ある市区町村のうち、Windows PCの採用方針が17自治体であるのに対し、Chromebookが18自治体、iPadも12自治体あったという。

 生徒数が相対的に多い23区部はWindowsの採用が多いのに対し、Chromebookの18自治体には島しょ部の8自治体が含まれる。このため台数ではWindowsが最多の見通しだが、ChromebookやiPadも2~3割のシェアを確保する勢いだ。一部の自治体は、低学年向けにiPad、中学校などでWindows PCかChromebookを採用するなど、横浜市と同様の組み合わせ調達を計画しているという。

本誌取材による、人口上位の地方自治体におけるGIGAスクール向け端末調達の状況
都道府県調達状況機種選定の状況
東京都共同調達はしないが各区市町村の意向は聞き取り中Windows PCは17自治体(23区部が多い)、Chromebookは18自治体(うち島しょ部の自治体が8つ)、iPadは12自治体、24自治体は未定
大阪府共同調達はしないが各市町村の意向は聞き取り中現時点での調達予定は自治体数ベースで、Windows PCとChromebook、iPadがおおよそ3分の1ずつ
愛知県各自治体の希望をまとめ共同調達。名古屋市など一部は独自調達7月入札の7自治体分は、Windows PCが1万6000万台、Chromebookが7000台、iPadが2万7000台
神奈川県各自治体の希望をまとめ共同調達。横浜市など一部は独自調達7月入札の3自治体分はChromebookが1万1100台、iPadが約6900台、Windows PCは今回はなし
埼玉県県内63自治体のうち20自治体が共同調達に参加予定。さいたま市などは参加せず現時点の意向でWindows PCは5自治体、Chromebookは14自治体、iPadはなし、未定が1自治体
千葉県共同調達はせず各自治体の聞き取りもしていない──
横浜市2020年6月に方針公表済み、9月に最終決定し2021年3月までに納品へChromebook約8万台を中学校に、iPad約19万台を小学校と特別支援学校の小中学部に導入方針

 他の府県も端末OSの選択肢は3つに分散している。大阪府は「(府内市町村から聞き取っている)現時点の調達予定は、自治体数ベースで3つのOSがほぼ拮抗している」(教育委員会事務局)。埼玉県では、独自に調達する人口が多い市は「Windowsが多い傾向」(義務教育指導課)だが、20市町村が参加する共同調達ではWindows PCの5団体に対しChromebookが14団体と優勢だ。実際の調達手続きを始めた愛知県や神奈川県の場合、一部自治体向けのみの途中経過だがWindowsよりもChromebookやiPadの台数が多くなっている。

 MM総研によると、国内でのChromebookの販売台数は2019年で10万~15万台程度にとどまっていた。GIGAスクールで3分の1のシェアを取れば一気に200万台程度が上積みされる計算だ。そうなれば日本で本格的にChromebookの市場が離陸することも考えられる。