富士通は2020年7月以降、国内グループ社員の勤務形態はテレワークを基本とし、今後3年でオフィス面積を半減する。テレワークで生じる課題解決と生産性向上に向けた切り札が個人の働き方を可視化するAI(人工知能)の活用だ。一方で「社員のプライバシーは保護されるのか」「会社から監視されるのではないか」といった懸念もある。
富士通は2017年4月から働き方改革の一環で、全社員を対象にテレワークを導入した。2019年7~8月のテレワーク推奨期間中、週1回以上テレワークをするなどした社員は48%だったという。
これに対し、「現時点で社員の8~9割がテレワークを利用している」(人事部)。2020年春以降は新型コロナウイルス感染対策として、出社率を25%以下に抑えることを目標とし、テレワークの活用が一気に広がった。テレワークが「常態」となったなか、富士通は社員が自律性を重視しながら生産性を向上できるように、AIツールを相次いで導入し働き方の可視化などに役立てる。
個人の働き方や、オフィスの状態を見える化
同社のサービスである働き方可視化ツール「Zinrai for 365 Dashboard」を自社で導入する。社員の業務内容や負荷を可視化し、その結果を基に上司と部下がコミュニケーションをとることで、生産性向上につなげる。同ツールは、日常業務で使う米Microsoft(マイクロソフト)のクラウドサービス「Microsoft 365」のメールやスケジュール、文書タイトルなどのデータや、業務用パソコンの利用状況などのデータなどをAIで解析し、自身の業務内容やそれに費やした時間などを可視化する。
富士通が2020年3月期に製品開発部門などの社員2000人を対象に同ツールを試行導入したところ、事務処理の時間が導入前より32%減った。コア業務にかけられる時間が増えたことから、生産性が高まり、年次有給休暇の取得日数が1.5倍になった。
また、年度末の繁忙期である2020年3月には営業部門を対象に同ツールを試行導入した。すると、業務内容を可視化できたことで、営業担当者が抱えていた事務処理をアシスタントに移管しやすくなった。繁忙期には営業担当者の業務全体の2~3割を占めていた事務処理が1割程度に抑えられるようになり、営業担当者のコア業務である商談の割合が増えたという。
試行導入した部署では、上司と部下の個人面談である「1 on 1ミーティング」で、同ツールで可視化したデータを見ながら、課題を共有して改善策を話し合った。ツールがコミュニケーション支援にも役立ったわけだ。
ツールで「場所」も可視化する。富士通は今後3年かけて全席フリーアドレスの3つ形態のオフィスを整え、既存オフィスの床面積を半減させる。3つの形態とは、主要拠点に設置する「ハブオフィス」、会議などに使いやすい「サテライトオフィス」、駅付近に多数設置して「止まり木」として使う「ホームアンドシェアードオフィス」である。
全席フリーアドレスのオフィスに欠かせないのが、席や会議室の空き状況や、直接会いたい社員がどこにいるかなどを確認する仕組みだ。そこで富士通は今回、オフィスの利用状況や社員の居場所などを可視化してリアルタイムで表示する自社サービス「EXBOARD for Office」を本格導入する。
オフィス内のセンサー情報や社員のパソコンやスマートフォンのWi-Fi情報などから空き状況や居場所を表示する。席の混雑状況を確認するため、1年以上前から社内で試行している。ただし、個人の居場所の可視化や行動履歴のひも付けは利用していなかった。