パナソニックはクリーナー(掃除機)やタンブラー(コップ)への利用を始めているセルロース繊維強化プラスチックについて、セルロース繊維の形状や製法などを明らかにした。木材などのセルロース源を微細化(解繊)処理する際、セルロースナノファイバー(CNF)のようにnm(ナノメートル)級に細かくするのではなく、繊維の中心部の太さはμm(マイクロメートル)級ながら両端がnm級に細かく枝分かれした形状にする。元のプラスチックより強度を向上できると同時に、セルロース繊維の混入率を85%と大きくできて木材の廃材やコーヒーかすなどを有効利用可能であり、「サーキュラーエコノミーに対応した材料」とパナソニックは位置付けている。
衝撃を受け止めて亀裂を広げない
同社は2018年8月に発売したコードレス掃除機「MC-SBU820J」「MC-BJ980」の持ち手部分にセルロース繊維強化樹脂を初めて使用した(図1)。「持ち上げて使う製品であるため軽量化する必要があったのと、倒れたときに生じる衝撃を受け止める必要があったため」(同社)という。2019年にはセルロース繊維の含有率を55%に高めた材料を開発、これを利用した木質調のタンブラー「森のタンブラー」の試験的な販売をアサヒビールとともに始めた(図2)。タンブラーは2020年度中に供給体制を大幅に強化するという。
これらの材料に含まれるセルロースは、木材などのセルロースを解繊したものである点はCNFと同じだが、nm級まで細くはないため、同社は「ナノ」を省いて「セルロースファイバー」と呼ぶ。ただしCNFと単に太さが異なるのではなく、中央部(非解繊部)の径はμm級であるものの、両端部(解繊部)は枝分かれしていてnm級の径の“ひげ根”のようになっている(図3)。
非解繊部と解繊部はそれぞれ耐衝撃性を高める上での役割がある。非解繊部は、ポリプロピレン(PP)などの母材プラスチックに入った亀裂の拡大を阻止する。解繊部は、母材からセルロース繊維が剥離するのを防ぐ役割を担う。一般に繊維強化プラスチックは、繊維の両端部分が母材から剥離して欠陥が生じやすく、複数の欠陥が相互につながると破壊に至るが、パナソニックのセルロース繊維強化樹脂ではこの欠陥が生じにくいという。
従って、CNFやガラス繊維よりも耐衝撃強度を大きくできる*。面衝撃強度を測定する試験では、セルロース繊維で強化したPPは、ガラス繊維補強のPPに比べて破壊するまでの伸びが大きく、それだけ大きい衝撃に耐えた(図4)。