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4つのクライアント環境にきめ細かく対応

 一方で、視聴者用クライアント側の対応も必要だった。SHOWROOMは他のライブ配信サービスよりも数多くのクライアントに対応しているのが特徴で、iOSとAndroidのネイティブアプリに加えて、パソコンのChrome、Safariブラウザーにも対応している。

 これらのクライアントにはそれぞれクセがあり、「4つの環境に対応するのは大変だった」(小井戸リードエンジニア)。それぞれに担当者を付けて、技術理解を深めながら着実に実装を進めたという。

 従来は視聴者用クライアントで数秒分のデータをまとめてダウンロードして蓄積しておき、一定の遅延を許容して、順次再生するのが基本的な考え方だった。遅延を短くするため、より細切れのデータをダウンロードしてすぐに再生できるように調整した。

 こうした基本的な考え方を、4種類のクライアントの特性に合わせて細かく実装するのが困難な作業になった。例えばChromeは映像・音声ストリーミング処理を扱う業界標準のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)である「Media Source Extensions」を内蔵しており、比較的実装が容易だった。一方でSafariにはこのAPIがなかったり、iOSネイティブアプリは音声と映像の時間処理の考え方が特殊だったりと、個別の仕様に対応する必要があった。

 当初は細切れのデータをダウンロードして再生した時点でいったん動作が止まり、動画がカクカクするような現象も起こった。これらの細かい問題を1つひとつ解消しながら、完成度を高めていった。

5G時代に備える

 こうして0.5秒の超低遅延モードを実現した。2020年7月時点の標準設定では従来通りの「通常配信」が適用される。視聴者が「映像選択」メニューで「超低遅延配信」を選ぶと切り替わる。まだ一部の視聴者が利用し始めた段階だが「好評を得ている」(小井戸リードエンジニア)という。

「超低遅延配信」に設定を変更するところ
「超低遅延配信」に設定を変更するところ
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 0.5秒の低遅延配信は、特にアイドルなどの熱狂的なファンに支持されているという。「熱狂的なファンほど、入力したコメントを早く読んでほしいとの思いが強く、超低遅延配信だとこのニーズを満たしやすい。狙い通りの効果が出ている」(小井戸リードエンジニア)。

 ただし0.5秒の低遅延配信は、配信者と視聴者の双方の通信が安定していなければ実現できない。そのためまだ標準設定とはしていないという。

 「現状でも、光回線などでネットワーク環境のいい人には超低遅延配信を体験してもらいたい。5Gが普及すれば、超低遅延配信が標準になっていくかもしれない。当社としては、コロナ禍で苦境にあるエンターテインメント業界を救う一助となりたい」と小井戸リードエンジニアは力を込める。