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 「まだやれることがあるはずだ」

 こう考えた伊藤は、さらなる使いやすさを目指して試作機のブラッシュアップを進めた。実は、社内プログラムのオーディションに合格してから3カ月後の2019年春、ボディーをもう1段階小さくした試作機を開発していた。

 これは、後に発売する量産モデル比で数%小さい。ボディーは小さいほど装着時の違和感を減らせ、周囲から目立ちにくくもなる。多くの利用者の期待に応えたいという思いが伊藤を突き動かした。

 ただ、同試作機は日の目をみなかった。フィンやファンといった機構部の小型化で冷却能力が下がり、起動すると熱風が発生。冷感を付与するという肝心の機能が維持できず、量産は難しくなった。

 そこから冷感性能とボディーの大きさとのバランスを数回調整し、2020年7月1日の発売時には全長116×全幅54×全高20mmに落ち着いた。質量は約89g。端末の使用温度範囲は5~40度で、夏季を想定した実験では、5分間の使用で約13度の冷房効果を確認できた。

次期型機はグローバル展開へ

 一般発売を経て、伊藤のもとに利用者からの“生の声”が集まり始めている。高評価もあれば、もちろん厳しい意見もある。中でも多いのが「稼働時間を延ばしてほしい」という要望だ。2~3時間の稼働でビジネスパーソンの移動需要を狙った同製品であるが、利用者は想定以上の長時間利用を望んでいる。

 また、「冷感面積を拡大してほしい」や「ボディーがもう少し薄くなればうれしい」などの要望も多数届いており、改良の余地はまだ残されている。伊藤は集めた声をもとに利用時の課題を潰していき、機能を向上させた次期型機の開発を目指す。フィンやファンの高効率モデルの採用などで、一歩ずつ実現に近づけていく。

 「これが完成形だとは思っていない。次はグローバル展開を狙う」

 伊藤がこう意気込むのは上海市での異様な暑さを経験したからだ。地球温暖化による気温上昇が地球規模で続く中、同製品の需要は世界中で高まっていくはず。ただ単に同じ製品を輸出すれば済むという話ではなく、冷感性能や使用感などは地域ごとに調整する必要がある。女性や子供が使いやすい、さらに小さいボディーの開発も視野に入れる。

 世界的な環境の変化に加えて、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でマスクの着用が当たり前の光景となった。感染を防ぐ手段としてマスクは効果的とされるが、夏季の着用は、暑苦しさや蒸れにつながりやすい。REON POCKETで首元を冷やせば、そんな不快感の緩和に一役買えるかもしれない。人々の快適な生活を支える選択肢を増やそうと、伊藤は今日も製品開発を続ける。

(敬称略)

■変更履歴
掲載当初、「小型の空調装置」としていましたが、正しくは「小型の冷却・温熱装置」です。おわびして訂正します。本文は修正済みです。また、前文・図の「REON POCKET(レオンポケット)」の説明に誤解を招く表現がありましたので、一部の説明を変更しました。[2020/08/06 11:00]