アシックスがIoT(インターネット・オブ・シングズ)を採り入れた、いわゆるスマートシューズ市場に進出する。この市場の先行者である米Nike(ナイキ)と米Apple(アップル)の協業による「Nike+iPod」が2006年に発売されてから14年。アシックスがこの時期、同市場に進出する背景には勝算と焦燥が垣間見える。
アシックスが発売するのは「EVORIDE ORPHE(エボライド・オルフェ)」。アシックス製のランニングシューズの靴底部にくぼみがあり、そこに専用センサーモジュールを装着。Bluetoothを介してスマホアプリと接続し、ランニング中にセンサーのデータを収集し記録していく。IoTシューズの開発ベンチャーであるno new folk studio(nnf)と共同開発した。2020年12月にアシックスの直営店などで一般発売する。それに先駆けて2020年7~10月にクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行予約を始めた。先行予約者には11月以降、順次出荷する予定だ。
スポーツ用品業界がデジタルに着目すること自体はさほど新しい話ではない。2006年に発売された「Nike+iPod」は一大旋風を巻き起こし、近年も米Garmin(ガーミン)や米Fitbit(フィットビット)などのスマートウオッチがランニング愛好家などの間に浸透しつつある。そんな中、なぜアシックスは今になってIoTシューズに踏み出したのか。背景を探っていくと、同社の勝算と焦燥が浮き彫りになってくる。
データ分析ノウハウと協業ベンチャーの知見を融合
「勝算」は、ビッグデータ解析により幅広い顧客に高い付加価値を提供できる点だ。実際、EVORIDE ORPHEのアプリでユーザーが確認できる情報の種類は他を圧倒する。足のどの位置に着地の衝撃がかかっているか、着地時に足が左右方向にぶれる動き(プロネーション)の角度、ストライドの長さと高さ、走り方の傾向を示すレーダーチャート、走りを改善するためのアドバイス、お勧めのトレーニングなど多岐にわたる。収集したデータはスマホ回線を経由してアシックスに集められ、今後の製品開発にも生かされる。
センサーモジュールに内蔵する3軸加速度センサーと3軸角速度センサーの測定値から、これだけの詳細な解析結果に結びつけるのはどのメーカーにもできることではない。「当社では人の動きを科学するというコンセプトに基づき、データを蓄積してそれを基に商品開発するという手法を研究開発部門で長年培ってきた。その点でたけていると思う」。アシックスの研究開発部門を率いる原野健一執行役員スポーツ工学研究所所長はそう明かす。