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 ヒトの感覚や筋肉の動きを他者と共有する「人間拡張」社会が近い将来訪れそうだ。NTTドコモは2020年7月30日、5G(第5世代移動通信システム)の次の世代である「6G」に向けた取り組みを紹介するオンラインイベント「5G evolution & 6G summit」のパネルセッションで、6G時代の活用分野として注目する「人間拡張」に関する最新研究を紹介した。遠隔地にいる他者との視聴覚・触覚共有に加えて、脳と外界間で直接情報を入出力する技術「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)」の分野でも超低遅延・超大容量のデータ伝送を目指す6Gが欠かせないとした。

 6Gは2030年ごろの実用化を目指す5Gの次の世代の無線通信方式だ。5Gをさらに進化させた超高速・大容量や超低遅延や、空や海、宇宙などあらゆる場所へのカバレッジ拡張などが議論されている。現時点で標準化活動は始まっていないが、中国や韓国、欧州などで6Gに向けた取り組みが活発化している。

ボディシェアリングのコアテクノロジー
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ボディシェアリングのコアテクノロジー
筋変位センサーは「微細な力の入り具合を検知でき、数百グラム単位での重量感の判別が可能である」(H2L代表取締役 岩﨑健一郎氏)。(出所:5G evolution & 6G summitの動画をキャプチャー)

 ドコモのイベントでは、人間拡張技術を開発するベンチャー企業H2L(東京・港)が、6Gの活用を想定する、ヒトの触感を遠隔地のロボットや他者と相互共有できる「ボディシェアリング」技術を紹介した。ボディシェアリングを使うと、ある人の体の動きや、重い・軽いといった重量の感覚を、離れた場所にいる別人に伝達し、その人の体の上に元の動きや感覚を再現できるようになる。同社の代表取締役の岩﨑健一郎氏は、「たとえばプロの楽器演奏の動きを記録し、自分の身体上で再現できる」と語る。

 同社が開発するボディシェアリング技術は、動きや感覚を送る側の人に「筋変位センシング(入力)装置」を装着する。そして、受ける側の人には、筋肉に電気刺激を与えることで仮想的に動きや感覚を得られる「電気刺激制御(出力)装置」を着ける。両者でやり取りする信号に、低遅延で大容量通信が可能な5Gや6Gを活用するなどして、遠く離れた人同士が感覚を共有する仕組みだ。

 筋変位センシング装置について同社は、光を当てることで筋肉の膨らみを検出する筋変位センサーを開発した。前腕部に取り付けて筋肉の伸び縮みを測定し、指の細かい動きを検出する。ジャイロセンサーや加速度センサーによる腕の角度や動きのセンシングと組み合わせているという。

 出力について岩﨑氏は、「単純に電気を流して触覚を与えるだけでは、あまり没入感を得られない」とする。そこで、筋肉に電気刺激を与えて収縮させる触覚技術に加えて、VR(仮想現実)などで映像を提示し、視覚も共有する。「視覚と触感を組み合わせることが大事である」(岩﨑氏)。そこで重要になるのが、視覚や聴覚、触覚が遅延なく自分の体に到達することだ。その上で岩﨑氏は、「5Gや、今後登場する6Gの超低遅延がカギとなるだろう」と話す。

ボディシェアリングには3つの応用分野が存在
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ボディシェアリングには3つの応用分野が存在
VR/ARのボディシェアリングは、16年に触感型インターフェース「UnlimitedHand」を発表。鳥が指に乗った感覚を映像と共に仮想的に感じられるという。(出所:5G evolution & 6G summitの動画をキャプチャー)

 H2Lは19年にドコモと協業。5Gを活用した高速・低遅延なボディシェアリングを実現する研究を進めている。例えば両社は20年2月に沖縄工業高等専門学校(沖縄高専)などと協力し、プールに浮かべたカヤックロボットを5G接続。感覚を伝送することで、遠隔地からもカヤックを体験できる実証実験を実施した。VR映像に加えて、オールをこいだ際の水の抵抗感や重さ、カヤックの傾きといった感覚を、遠隔地からでも違和感なく伝えられるような取り組みを進めている。

実証実験のシステム
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実証実験のシステム
ドコモ5Gオープンラボ内のマスターシステムと、遠隔地のカヤックロボットを5G接続。VRヘッドマウントディスプレーにカヤック視点の映像を伝送し、さらに水の抵抗感やカヤックの傾きをリアルタイムに再現する。(出所:NTTドコモ)