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 九州南部を中心に甚大な被害を出した「令和2年7月豪雨」。浸水被害を可視化する国の活動の裏方で活躍したのが、AI(人工知能)を使ったSNS(交流サイト)分析を手掛けるベンチャーのSpectee(スペクティ)だ。

 同社はSNSの投稿データをリアルタイムに解析し、被害の場所を推定する技術を持つ。次の豪雨がいつ起こってもおかしくないなか、浸水被害を見える化するデジタル技術の威力とは。

リアルタイムに浸水場所を推定

 「家の前の道が冠水してんだけど割とやばくない?」「芦北町もう外に出れません、知り合いの安否確認してください!」――。

 2020年7月4日未明、熊本県人吉市を流れる球磨川周辺の住民とみられるTwitter利用者が、次々に豪雨の様子を投稿した。同日午前4時50分、気象庁は熊本県南部の16市町村と鹿児島県北部4市町村に「大雨特別警報」を出した。

 その約8時間後の午後1時、国土地理院は人吉市周辺の浸水推定図を公開した。浸水していると思われる地域を示すと同時に、浸水の深さを色分けして表示した。自治体などによる救助計画の立案や遂行、援助物資の手配や避難所の準備、保険会社の損害調査などに使われるマップである。

国土地理院が作った「令和2年7月豪雨」の浸水推定図
国土地理院が作った「令和2年7月豪雨」の浸水推定図
(出所:国土地理院)
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 国土地理院はSpecteeの技術を基に同図を作った。TwitterやInstagram、Facebook、YouTubeといったSNSの投稿データをAIで解析し、浸水が発生している場所をリアルタイムに推定して、地図上に表示する技術だ。洪水や地震といった自然災害に加えて、火災や交通事故、感染症など100以上の事象をカバーしている。

 浸水の深さを色分けした今回のような浸水推定図を国土地理院が作り始めたのは2018年に西日本を襲った「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」がきっかけだ。当時もTwitterなどの投稿データを使っていたが、Specteeの技術を新たに使うことで「Twitterの検索機能に比べて余計な情報が排除されていてありがたかった」(国土地理院応用地理部)。

 「災害が今どこで起こっているかリアルタイムに把握することで、自治体や住民が素早く災害に対応できるよう支援したい」。Specteeの村上建治郎社長は、同社の技術の狙いをこう語る。

 2014年、テレビや新聞といったマスメディア向けに同技術の提供を開始。2020年3月に、地図表示機能などを強化したバージョンを、自治体や一般企業向けに提供し始めた。