「ロボット開発会社ではなく都市開発会社になってきた」――。こう明かすのは技術スタートアップZMP(東京・文京)社長の谷口恒氏である。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、日常の生活は他者との接触を避ける新様式にシフトする。そこにロボットを組み込み、利便性を向上しようと邁進(まいしん)するのが同社だ。住民とロボットとが共生する街「ロボタウン構想」を提唱する谷口社長にその可能性や課題を聞いた。
(聞き手は窪野 薫=日経クロステック)
自動運転のイメージが強いが、近年は事業の多角化を進めている。何を目指しているのか。
ZMPは2001年にロボット技術で創業し、2008年に自動運転分野へと進出した。現在は、認知・制御技術を軸にした自動運転技術開発プラットフォームや、この技術を転用したAGV(無人搬送車)、無人フォークリフトなどを展開している。
さらに、人の日常生活を支援するライフロボット分野として、自動宅配ロボット、1人乗り自動走行ロボット、自動警備・消毒ロボットといった製品群を持つ。これらは、4輪を備えた箱型の車両で、自動運転分野で使う3次元や2次元のLiDAR(レーザーレーダー)、カメラや接触センサーなどを組み合わせて自律走行する。
このライフロボット分野の製品を運用する「ロボタウン構想」を推進中だ。住民の徒歩移動範囲を「ウォーカブルエリア」と定義し、1つの都市として再開発する。ロボットが人々の生活に入り込み、市民権を得て、共存を促す。ロボットの活躍の場を増やすことは当社の使命だ。実現のために、これまでのロボット開発会社としてだけではなく、都市開発会社として街づくりに参入している。
壮大な構想に思えるかもしれないが、既に計画は動き出している。第一歩として、2020年9月以降、東京・中央の高層マンション「リバーシティ21」エリアで宅配ロボットを使った自動配送サービスや、1人乗りロボットを使った高齢者向けの自動移動支援サービスを始める。警備・消毒ロボットの導入も視野に入れる。このエリアは着工から30年が経過し住民の高齢化が進む。ロボットが活躍するチャンスは大きい。
自動宅配サービスでは大手宅配事業者と組む。まずはマンションの1階入り口部分まで荷物を運べるようにする。住民の理解を得ながら適用を広げていき、ゆくゆくはエレベーターに宅配ロボットが乗り込んで、各部屋を回れるようにしたい。電動で走行時の騒音が小さい宅配ロボットは、夜間でも配達しやすいことが強み。また、物流業界の慢性的な課題である人手不足の解消にも一役買う。
自動移動支援サービスでは不動産会社やデベロッパーと連携する。マンションの空き駐車場を活用して、5台ほどの1人乗りロボットを配備する。月1万円の利用料金で乗り放題とし、主に高齢者の買い物や通勤といった短距離の外出に使ってもらう。大手事業者が手掛ける乗用車を使ったカーシェアリングでは、会員60人に対して1台の車両を配備することが多い。当社は15人に1台を基準としてより身近なサービスにしたい。
他エリアへの展開は予定しているのか。
まずは都心部から始めることが重要と考える。人口密度が高く、多くの住民の利用が見込めるからだ。
導入の初期段階では各種ロボットの価格はどうしても高くなりがち。まずは採算が取れるエリアからサービスを開始し、ロボットの導入台数を増やす。量産効果で車両コストを抑えられれば、損益分岐点を引き下げられる。すると、郊外でも運用できるようになる。このように、都心部をスタート地点として、日本各地に点在する同様の課題を抱える街に広げていきたい。