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 新型コロナウイルスによって人との接触や国内外の移動が大幅に制限されたことから、VR(Virtual Reality)への期待が高まっている。その普及に向けた最大の障壁といえるのが「VR酔い」だ。国内の研究者がVR酔いを低減する理論を提唱し、効果を確認した。今後、VR機器やコンテンツの開発に大きな進展をもたらす可能性がある。

 VRで吐き気や目まいなどの症状が起きた、という人は少なくないはずだ。VRに限らず「映像酔い」として映像視聴体験全般で見られる現象だが、VR映像の場合は視野角や解像度など性能面の制約が多いヘッドマウント・ディスプレー(HMD)で視聴することもあり、特に発生しやすいといわれる。コンテンツ制作者からすると、映像のエンターテインメント性やリアリティーを高めるために激しい動きを入れたいが、そうすることでVR酔いを誘発してしまうというジレンマを抱えている。

 VRは、新型コロナ以前も「新しい映像視聴体験」「5G(第5世代移動通信システム)の“キラーコンテンツ”」などとして長らく注目されていた。だが、現時点では消費者向けでも産業向けでも、一部の先進ユーザーのための技術にとどまっている。視聴体験を損なったり長時間の視聴を難しくしたりするVR酔いが、普及を妨げている主な要因の1つであるのは間違いない。

 VR業界も対策は取ってきた。VR酔いを防ぐために、ディスプレーや映像の仕様(前者は解像度やリフレッシュレート、後者はフレームレートなど)に一定の水準を設けている例が多い。この他、映像に合わせて音や振動などの感覚情報を与えるという工夫を取り入れている例もある。しかし、そのほとんどは経験則的なものであり、どれぐらい効果があるのか、あるいはそもそも本当に効果があるのかどうかは明確ではなかった。

移動速度に同期させる

 このVR酔いを低減する基礎的な理論を、静岡大学情報学部情報科学科助教の板口典弘氏らのグループが提唱した1)。端的にいえば、「映像に対してユーザーが予測する感覚情報を不足なく与える」というものである。

 板口氏らは、2輪車のVRシミュレーターを使った実験でこの理論を実証した。被験者は実物大の2輪車を模したシミュレーターの座席にまたがり、HMDを装着した上で、速度を上げたり下げたりしながら道路を走行する映像を視聴する。このとき、映像上の移動速度に同期して周波数が増減する音(エンジン音)と振動(座席の振動)を被験者に与えると、これらの感覚情報を与えなかった場合に比べて、酔いの程度を大幅に低減できた。

実証実験に使ったVRシミュレーターと映像。加減速しながら走行する。(出所:静岡大学)
実証実験に使ったVRシミュレーターと映像。加減速しながら走行する。(出所:静岡大学)
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 ちなみにこの研究は、ヤマハ発動機の2輪車事業部門が静岡大にVR酔い対策を相談したことがきっかけになった。同部門では、2輪車の走行安定性の研究にVRシミュレーターを活用している。仮想空間上で様々な走行環境を検証できるシミュレーターは非常に有用だが、同社のテストライダーもVR酔いに悩まされていたという。