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 内閣府が2017年5月29日に発表した「宇宙産業ビジョン2030」。民間での宇宙利用の拡大などを通じて、2030年代に宇宙産業の市場規模を現在の2倍の2.4兆円を目指すとした。その目玉が衛星データの利用拡大だが、政府の旗振りにもかかわらず、現状では民間での活用はあまり広がっていない。「宇宙」に関心を示す企業は多いものの、衛星データというシーズと、自社の課題解決というニーズに大きな乖離(かいり)があるのがその一因との指摘もある。

 この状況に一石を投じると期待されているベンチャー企業が2020年内に本格始動する。Synspective(シンスペクティブ、東京・江東)だ。内閣府が主導した革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)での開発成果注1)を実用化するために2018年2月に設立された。創業からわずか1年5カ月で109億円の資金を調達。これは宇宙系ベンチャーとして世界最速かつ国内最大規模だという。

注1)テーマは「オンデマンド即時観測が可能な小型合成開口レーダ衛星システム」。プログラムマネージャーを務めた慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の白坂成功氏が、CEO(最高経営責任者)の新井元行氏とともにSynspectiveを設立。現在は取締役を兼任

SAR衛星初号機を年内打ち上げ

 Synspectiveは「合成開口レーダー」(SAR:Synthetic Aperture Radar)を搭載した小型人工衛星やコンステレーション(多数機の衛星による観測システム)の開発のみならず、衛星データの販売、解析、顧客の課題を解決するソリューションの提供までをワンストップで行う。SARは地表などにマイクロ波を照射し、その反射波から画像を作成するレーダー。カメラで地表などを撮影する光学衛星とは異なり、雲があっても夜間でも“いつでもどこでも”データを取得できるのが大きなメリットだ。この継続性がある衛星データを基に、顧客の現場の課題を解決するソリューション開発までを手掛けることで、他社と差異化する戦略だ。

光学衛星とSAR衛星のデータ比較。SARのデータはレントゲン写真のようで解析にはノウハウが必要だが、天候や時間に左右されずにいつでもデータが取得できるのがメリット
光学衛星とSAR衛星のデータ比較。SARのデータはレントゲン写真のようで解析にはノウハウが必要だが、天候や時間に左右されずにいつでもデータが取得できるのがメリット
(図:Synspective)
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 Synspectiveは2020年4月、米国のロケットベンチャーのロケットラボ(Rocket Lab)と衛星初号機「StriX-α」の打ち上げについて契約を締結。2020年内の打ち上げを予定している。2022年までに6機を打ち上げてアジアの人口100万人以上の都市の観測データを1日1回以上取得できるようにし、2025~2030年の間に30機体制を実現し、世界の100万人以上の都市をカバーする予定。それに先んじて2020年9月からはSARデータを活用したSaaS(Software as a Service)型のソリューションサービスの提供を開始する。

Synspectiveが開発したSAR衛星「StriX」。これまでのSAR衛星と比較して大幅な小型・軽量、低コスト化を実現した
Synspectiveが開発したSAR衛星「StriX」。これまでのSAR衛星と比較して大幅な小型・軽量、低コスト化を実現した
(写真:Synspective)
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  実は、世界初の商用SAR衛星「TerraSAR-X」をドイツが打ち上げたのは2007年だが、これまでは民間利用はあまり進まず、SAR衛星の利用は長らく偵察衛星など特殊用途に限られていた。米国がSAR衛星の商用利用を解禁したのは2016年と最近になってのことである上、マイクロ波アンテナの小型・軽量化が難しいという技術的なハードルがあった。

 Synspectiveでは、「平面スロットアレーアンテナ」と呼ぶアンテナを開発することなどによって、高い地上分解能と小型・軽量化を両立したSAR衛星を実現した。7枚のアンテナパネルは打ち上げ時に折りたたまれ、小型ロケットのフェアリング(先端部の部品)にも収まるサイズになり、衛星が周回軌道に乗った後は、アンテナは自動的に展開し、長さ約5mの大型パネルアンテナになるという。

 StriXをTerraSAR-Xと比較すると、重量は100kgで1/10以下、製造と打ち上げを合計したコストは10億円以下で1/20以下としている。地上分解能は、Xバンド(8G~12GHz)のマイクロ波を用いることで1~3mと同等レベルを維持している。

 小型・軽量、低コストのSAR衛星の実用化は、衛星データビジネスをどう活性化していくのか。そしてSynspectiveはどのようなビジネス展開や将来ビジョンを描いているのか。代表取締役CEOの新井元行氏とソリューション開発部ゼネラルマネージャーの今泉友之氏に聞いた。(聞き手=内田 泰、インタビューはオンラインで実施)