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 電気自動車(EV)の駆動用モーターを支持する軸受の高速回転化に向けた技術開発が進んでいる。EVの駆動用モーターでは小型化・軽量化と高出力化を両立するために高速回転化が不可欠になっており、モーターの回転軸を支える軸受側にも対応が求められているからだ。軸受のピッチ円直径(mm)と回転数(rpm)を掛け合わせた数値であるdmn値は100万を超え、現在は150万超が勝負の場になっている。高速回転化のネックとなる異常な温度上昇をいかに抑制するのかに軸受メーカー各社がしのぎを削る。

ジェイテクトが開発した高速回転可能なグリース潤滑玉軸受
ジェイテクトが開発した高速回転可能なグリース潤滑玉軸受
従来にない新形状の保持器を採用し、dmn値を150万以上に高めた。(出所:日経クロステック)
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 EVモーターの高速回転化対応で技術競争が進んでいるのは、潤滑剤としてグリースをあらかじめ入れて使う深溝玉軸受である。国内の大手軸受メーカーでまず先行したのがNTN。dmn値を従来の約2倍である108万に高めた製品を2015年に発表した。2020年に入って、3月に日本精工(NSK)がdmn値140万の製品を発表すると、5月にはジェイテクトが150万以上と高速回転対応の軸受の発表が相次いだ。

 異常な温度上昇を招く最大の要因で改良のポイントになっているのは転動体(玉)の間隔を一定に保つ部品の保持器。この点の認識は各社同じだ。一方で具体的な対策は各社異なり、アプローチは“三社”三様である。詳しく見てみよう。

材料変更せず太くもしないで剛性アップ

 公表しているdmn値が150万と、現時点で最も高性能なのはジェイテクトだ。dmn値150万で想定するのは回転数2万5000rpm以上(内径30~40mm、外形60~65mmの軸受)である。同社は従来と大きく異なる形状の保持器を開発し、コストアップ要因となる材料変更や小型化に反する軸受の幅増加を伴わない高速対応を可能とした。

軸受の高速回転化を阻む2つの課題
軸受の高速回転化を阻む2つの課題
高速回転化で遠心力が大きくなると、保持器が変形して他の部品と干渉する。これにより摩擦熱が発生し、グリースも移動して内輪側での潤滑が不足する。結果、軸受の温度が上昇して破損や焼き付けに至る。(出所:ジェイテクト)
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 軸受の高速回転化を阻む最大の要因である温度上昇の原因は大きく2つ。回転速度が高まると遠心力によって保持器が変形し、軸受を構成する他の部品(外輪やシール、球)と干渉して摩擦によって発熱してしまう。加えて、グリースを軸受内部にあらかじめ入れておくグリース潤滑玉軸受では、遠心力によってグリースが移動し、内輪側の軌道部分での潤滑不足(グリース不足)が発生してしまう。

「冠型保持器」の形状
「冠型保持器」の形状
円環から軸方向に多数の爪が伸びた形になっている。この爪の間に球がはまり込む。(出所:ジェイテクト)
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 高速回転化を実現するには、これらの課題を解決しなくてはならない。まず、保持器の変形に伴う他部品との干渉だ。この分野のグリース潤滑玉軸受ではプラスチック製の円環から軸方向に多数の爪が伸びた「冠型保持器」が使われている。爪と爪の間(ポケット)で玉を保持する。

CAE解析による保持器の変形
CAE解析による保持器の変形
左から右に向かって回転数が上昇している。高速化に伴って保持器が変形している。特に、爪の先端(左側)の変形量が大きい。(出所:ジェイテクト)
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 回転数が高まって遠心力が大きくなったときに、保持器の爪の先端部分が外側(放射線方向)に大きく変形して干渉を招く。一般的な対策は冠型保持器の円環部分(背肉部分)を太くして剛性を高めること。ねじれて爪が移動する量を減らせる。そのために通常は保持器の材料を変えたり、背肉部分を太くしたりといった改良を施す。

保持器の剛性向上
保持器の剛性向上
左が従来の標準的な保持器、右が剛性を向上させた保持器。環状部分が太くなるため、結果、軸受の幅も大きくなってしまう。(出所:ジェイテクト)
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 ジェイテクトでは従来、例えば背肉厚さを1mm以上増加して保持器の剛性を高め、遠心力による変形量を少なくする場合があった。ただしこの方法での対応では保持器の背肉部分が太くなり、軸受幅も広くせざるを得ない。モーターを小型化したくて高速化するのに、対応する軸受の方が大型化するという本末転倒の結果を招く。保持器をより剛性の高い材料に変更して対応する手もあるがコストアップにつながる。