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 フランスの半導体産業調査会社であるYole Développement(ヨール・ディベロップメント)からMEMS(微小電子機械システム)製造企業の2019年の売上高ランキング(図1)が発表された。以下では、結果を紹介しながら、筆者が気づいたポイントを紹介する。

図1 2019年MEMS売上高ランキング
図1 2019年MEMS売上高ランキング
(Yole Développementから提供)
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上位の顔ぶれに変化なし

 全体的に2016年から2018年までのような大きな変化は見られなかった。トップ6は2018年から変わらず、上から米Broadcom(ブロードコム)、独Robert Bosch(ロバート・ボッシュ)、伊仏合弁のST Microelectronics(STマイクロエレクトロニクス)、米Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、米Qorvo(クォルボ)、米Hewlett Packard(ヒューレット・パッカード)である。BroadcomとRobert Boschが2強であり、3位以下に対してダブルスコアを付けている。BroadcomのMEMS製品は、唯一、BAWフィルターである。これに対して、Robert Boschは自動車向けとコンシューマー向けに幅広いセンサーポートフォリオを誇っており、MEMSファウンドリー事業も営んでいる。ST Microelectronicsも様々なセンサーを製品として持っており、MEMSファウンドリー事業も営んでいるが、コンシューマー向けがほとんどであり、それがRobert Boschに及ばない大きな理由である。なお、MEMS売上高ランキングは、かつてMEMSファウンドリー事業分を除いていたが、現在は含んでいる。

BAWフィルター企業に好不調の差

 BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルターを製造するBroadcomと5位のQorvoは、2018年と比べて売り上げを顕著に落としている。同じくBAWフィルターを製造する太陽誘電は、今回、21位に初登場した。太陽誘電は、以前からBAWフィルターを販売しているので、2018年の売上高が記入されていないのは、0という意味ではなく、未調査または不明ということになる。とにかく、太陽誘電ではBAWフィルターが好調であったようだ。これら3社の泣き笑いには、米中貿易摩擦が影響していると思われる。19位の米RF360は旧Epcos(エプコス)であり、米Qualcomm(クアルコム)とTDKの合弁企業であったが、2019年にQualcommの完全子会社となった。QualcommのMEMS製品もほぼBAWフィルターである。Qualcommはベースバンドプロセッサーで圧倒的な地位にあり、それと自社製RFフロントエンドモジュールを組み合わせることで、今後、さらにBAW・SAW(Surface Acoustic Wave)フィルターの売上高を増やす可能性がある(参考記事)。米国による華為技術への制裁の中で発売されたスマートフォン「HUAWEI P30」にもQualcommのRFフロントエンドモジュールが堂々と使われている。

 中国のBAWフィルターメーカーである诺思微系统(ROFS Microsystem)は、中国の大学教授がFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)フィルターの技術情報漏洩で有罪となった事件(関連記事)でも話題になっているが、近いうちにMEMS売上高ランキングに登場するかもしれない。現在、同社は南昌と綿陽の工場を立ち上げ中である。特に綿陽工場は写真で見る限り巨大であり、年間110億個の生産能力があるという。南昌工場の生産能力は年間18億個になるという。仮に両工場がフル操業すると、本社のある天津の工場の数十倍の生産能力となる。