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 「創業30年を迎える2031年に売上高で数千億円を目指す」――。こう目標を掲げるのは技術スタートアップZMP(東京・文京)代表取締役社長の谷口恒氏だ。同社は2021年1月に創業20年を迎え、現状の売上高は約15億円。そこから10年あまりで売上高100倍以上という大成長を狙う。一時は「倒産寸前」の状況からV字回復を果たし、現在は自動運転技術で存在感を示す同社。これまでの軌跡、そして次なる成長への原動力は何か、谷口社長に聞いた。

(聞き手は窪野 薫=日経クロステック)

谷口 恒(たにぐち・ひさし)。ZMP代表取締役社長。1989年3月群馬大学工学部卒業、2019年3月東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、美術博士。大学卒業後、制御機器メーカーでアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の開発に携わる。その後、商社で技術営業、ネットコンテンツ会社の起業などを経て、2001年にZMPを創業。家庭向け2足歩行ロボットや音楽ロボットの開発・販売を手掛け、2008年に自動運転分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両を提供する。現在、自動運転技術開発プラットフォームの「RoboCar(ロボカー)」シリーズ、台車ロボ「CarriRo(キャリロ)」、無人フォークリフト「CarriRo Fork(キャリロフォーク)」、自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」、移動支援ロボット「RakuRo(ラクロ)」、無人警備・消毒ロボット「PATORO(パトロ)」など多様な自動技術・サービスを展開する。(撮影:日経クロステック)
谷口 恒(たにぐち・ひさし)。ZMP代表取締役社長。1989年3月群馬大学工学部卒業、2019年3月東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、美術博士。大学卒業後、制御機器メーカーでアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の開発に携わる。その後、商社で技術営業、ネットコンテンツ会社の起業などを経て、2001年にZMPを創業。家庭向け2足歩行ロボットや音楽ロボットの開発・販売を手掛け、2008年に自動運転分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両を提供する。現在、自動運転技術開発プラットフォームの「RoboCar(ロボカー)」シリーズ、台車ロボ「CarriRo(キャリロ)」、無人フォークリフト「CarriRo Fork(キャリロフォーク)」、自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」、移動支援ロボット「RakuRo(ラクロ)」、無人警備・消毒ロボット「PATORO(パトロ)」など多様な自動技術・サービスを展開する。(撮影:日経クロステック)
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2021年1月で創業20年を迎える。次は何を目指すのか。

 創業20年は大きな節目となるが、次はさらに10年先、2031年の創業30年を見据えている。事業規模を拡大して年間の売上高で数千億円を目指す。私の夢は、ロボットが人々の生活に浸透した社会を実現すること。売上高はその企業が社会的にどれだけ必要とされているかを示す指標となる。当社が開発するような自動走行ロボットが市場でカテゴリーを確立するためには、数千億円規模の売上高が必要になる。現状の15億円では遠く及ばない。

 現状の業績から見るとあまりに壮大な目標に思えるかもしれない。ただ、これは決して絵空事ではなく十分達成可能な数値とみている。原動力となるのがLiDAR(レーザーレーダー)など自動運転技術を転用した小型4輪ロボットだ。移動支援ロボット「RakuRo(ラクロ)」、自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」、無人警備・消毒ロボット「PATORO(パトロ)」といったシリーズを展開しており、今後も製品群には注力していく。

 移動支援ロボットは主に1人乗りを想定しており、高齢者をはじめ移動に課題を抱える人々を支援する。例えば、地方に居住する免許返納済みの高齢者向けに、短距離の移動サービスを提供したい。高齢者は100mの距離までは歩けるが、1kmとなると体力的に厳しいとの意見を聞く。免許返納者でも不便なく移動できるように、軽自動車の代替需要を開拓する。そこには(1台当たり200万円×150万台で)3兆円もの巨大市場があると推定する。このうちの数割を獲得できれば数千億円の売上高が視野に入る。

 自動宅配ロボットは、大手物流事業者の集配場への配備を期待している。1カ所の集配所には3~4人の配達員が勤務していることが多い。各集配所に自動宅配ロボットを導入できれば、全国で数百億円の規模になる。この取り組みに関しては、2020年9月以降に東京都中央区などで試験導入を予定している。警備・消毒ロボットも組み合わせて多様なサービスを提供したい。

 また、物流分野の需要も底堅い。当社は2019年から自動運転技術を転用した電動の無人フォークリフトを展開している。電動フォークリフトは国内に6万台存在しているが、仮にそのうち10%相当の6000台で無人フォークへの買い替えが起こったとする。市場規模は(1台当たり2000万円×6000台で)1200億円だ。競合他社と市場を分け合うことを考えても、シェア3割を獲得できれば約400億円規模の売上高を確保できる。

 これら、当社が手掛ける多様な製品群は伸びしろが大きい。需要に応じた新たな製品やサービスを開発することで、目標とする数千億円の売上高を目指していく。

創業からここまでのターニングポイント(転換点)は。

 約20年間で様々なことを経験した。その中で、大きく3つのターニングポイントがあったと考えている。

 まずは、2008年のリーマン・ショックだ。当時、自律移動の機能を備えた音楽再生ロボットを開発し、初回生産500台が完売するなど、市場からは高評価を得ていた。次の一手として、6万~8万円程度の低価格モデルの市場投入を目指していたが、そこでリーマン・ショックが起こった。

 ベンチャーキャピタル(VC)は次々と引き上げ、資金の調達が困難になった。私も数カ月間奔走したが、金融機関の業績も厳しいものとなり、結局、新たな資金を得ることはできなかった。正直、会社は倒産寸前だった。

 どうにか会社を継続させるべく、これまで開発してきた認知や制御などの技術を駆使して、BtoC(消費者向け取引)からBtoB(企業間取引)への事業転換を決意する。そこで生まれたのが「RoboCar(ロボカー)」という実車の1/10サイズの自動運転開発用車両だ。企業や大学の技術開発需要を捉えて受注を伸ばし、会社も危機を脱することに成功した。

 2番目のターニングポイントは、2017年に自動運転分野を中心に自社サービス化を進めたことだ。ディー・エヌ・エー(DeNA)との提携を運営方針の違いから解消し、それを契機に独自路線の自動運転技術の開発を推進。タクシー会社と組むなどしてサービス分野も手掛けるに至った。そうなると、利用者の声を直接受け止めることができる。様々な人の声を反映させて、ロボットのラインアップを続々と増やしていった。

 そして、3番目のターニングポイントは、2020年上期から現在も続く新型コロナウイルスの感染拡大である。「三密」(密閉・密集・密接)を回避するため自動化の需要は飛躍的に伸びている。また、人々の生活様式は大きく変わり、移動の概念も変化している。飛行機や新幹線を使った遠方への移動を避けるようになり、徒歩移動範囲をさらに便利に住みやすくする工夫が求められている。いずれも当社の技術が得意とする領域だ。ロボットの活躍の場を広げて人々の生活をより豊かにしていく。