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 「新たな産業クラスターの構築を目指したい」――。そう意気込むのはジェイテクトの新規事業推進部から子会社のファクトリーエージェント(東京・中央、以下FA)代表取締役社長に転じた上出武史氏。ジェイテクトは2020年8月、部品加工の受発注マッチングサービス「ファクトリーエージェント」を手掛ける100%子会社ジェイテクトFAをサービス名と同じ「ファクトリーエージェント」に社名変更。さらに金属加工を手がける町工場でありながらものづくりスタートアップの育成や支援などにも力を入れる浜野製作所(東京・墨田)と提携して、同事業の本格展開に乗り出した。背景にあるのは、日本のものづくりの弱体化に対する大手メーカーとしての危機感と、だからこそそこにビジネスチャンスがあるとの読みだ。

ファクトリーエージェント代表取締役社長の上出武史氏
ファクトリーエージェント代表取締役社長の上出武史氏
(出所:ファクトリーエージェント)
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 FAは大手企業、研究機関などと中小の加工業者、町工場を中心としたサプライヤーを「マッチング」するサービス。試作や業務用機器など向けの小ロット部品製作や加工を依頼したい「発注者」と、中小の町工場など「受注者」を仲介する。見積もりの依頼から候補会社の選定、各社の提案の比較・選定、発注、検品、支払い手配までの一連の処理が全てFAのWebサイト上で完結する利便性が売りだ。現状は板金とプレス加工のみに対応するが、研削や切削といった他の加工法にも今後対応を加速していく。

マッチングサービスの流れ
マッチングサービスの流れ
発注者が必要な部品の図面や仕様を登録すると、FAが適切な業者を2、3社選出して見積もりを提示する。発注者は見積もりを提出した企業とチャットでのコミュニケーションができる他、発注後も適宜、製造工程に応じたステータス管理が可能という(出所:ファクトリーエージェント)
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 ジェイテクトが新規事業の1つとしてマッチング事業を立ち上げたのは18年秋。19年春にトライアルサービスを始め、2020年4月には子会社ジェイテクトFAに分社化していた。トライアルの開始から1年余りを経ていよいよ事業を加速させる。ジェイテクトグループの協力会社のネットワークを活用しながら、浜野製作所が持つ町工場の知見をマッチングに生かす狙いだ。

業界の垣根を越えた取引を創出

 FAのサービスを発注者から見ると、競争力や独自技術を持つ新たなサプライヤーを発掘でき、調達リスクの回避やBCP(事業継続計画)の強化につながる。そもそも新規サプライヤーの発掘自体が簡単ではないうえ、技術力の確認などに手間が掛かる。いよいよ取引開始となると信用調査なども必要になる。このあたりの面倒をFAが肩代わりしてくれるのもありがたい部分だろう。

 一方、受注者である町工場らの立場から見ると、これまでは経営者などが自ら行うことも多かった新規顧客の開拓ができて、取引先を分散して事業の安定が図れるうえに、代金回収をFAが代行してくれるなど、新規取引のリスクを回避できる。売り上げの一定割合を成果報酬の形でFAに支払う必要はあるが、打率の低い新規開拓の営業活動や代金回収などにリソースを取られず、ものづくりに専念できるメリットがある。

 各業界の大手メーカーが既に構築済みの調達網(サプライチェーン)では、往々にして企業グループごと、業界ごとにサプライヤーの顔ぶれが固定化している。ここに風穴を開けるのがFAの狙い。企業グループや業界の垣根を越えて、「実力のある中小企業や町工場に新たな需要を創出できる」(FAの上出氏)からだ。半導体業界の発注者と自動車業界の受注工場を仲介するなど、新たな調達関係の構築が期待できるとする。確かに、工作機械や自動車部品、設備大手のジェイテクトが背後に控えるFAの仲介ならこうした大胆な越境も可能かもしれない。

業界をまたいで発注者と受注者をつなぐ
業界をまたいで発注者と受注者をつなぐ
(出所:ファクトリーエージェント)
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 プラットフォームを介して発注者と受注者が相互に利益を得られ、結果としてプラットフォーマーも利益を得る。こうしたビジネス構造は「エコシステム」と呼ばれ、スマートフォン向けのアプリ事業や、米Amazon.com(アマゾン)に代表されるマーケットプレイス事業でその威力を見せつけてきた。製造業は長年、大手企業の下に1次(ティアワン)、2次と受注企業がピラミッド状に連なる構造が受発注の軸だった。FAのサービスはこうした構造を壊す可能性も秘めている。

基本は人がマッチング、ITはツール

 製造業にエコシステムを持ち込む狙いもあり、FAのような機械加工などの仲介や受発注を手掛ける「製造業向けの受発注プラットフォーム事業」はいま急速に活性化している。機械部品のカタログ販売大手のミスミは16年に、金型部品の3Dデータをアップロードすると即座に見積もりを返し、発注できるサービス「meviy」を開始。いまでは、板金やFA向けの機械部品にも拡大している。17年創業のスタートアップであるキャディ(東京・台東)は人工知能(AI)を活用。やはり3Dデータを登録すると見積もりから発注までを迅速にこなすサービスで注目を浴びた。20年に入ってからは、NTTコミュニケーションズとPwCコンサルティング(東京・千代田)や、NTTドコモといったIT系企業が製造業向けのマッチング事業のトライアルを始めている。

 参入相次ぎ競争が激化するこの事業分野でFAは何を強みとするのか。「人が主体の『ヒューマンドリブン』のマッチングをしている」と上出氏は話す。他サービスが、AIやITを駆使して見積もりやマッチングを極力自動化・迅速化しようとしているのに対し、FAではあえて人を介在させているという。