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 2020年7月、米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の4脚ロボット「Spot」がプロ野球の応援に駆け付けた。その数はなんと20台。同じく20台の人型ロボット「Pepper」と合わせて計40台からなる「ロボット応援団」が福岡ソフトバンクホークス(福岡市、以下ホークス)の本拠地福岡PayPayドームに登場。7回裏の攻撃前に流れるホークスの球団歌「いざゆけ若鷹軍団」に合わせてダンスを披露してみせた。その様子はテレビや新聞で取り上げられたほか、SNSなどでも大いに話題となり、ホークスは当初7月限りの予定だった応援企画を延長。内容も拡充して10月末までは応援を続けるとしている。

ダンスを披露する4脚ロボット「Spot」
ダンスを披露する4脚ロボット「Spot」
それぞれ20台のSpotとPepper、合計40台のロボットが福岡ソフトバンクホークスを応援するダンスを披露。ホークスのチームカラーは「レボリューションイエロー」だが、偶然にもSpotの本体も黄色だ。写真は福岡PayPayドームのレフトスタンドに設けた特設ステージ。(出所:アスラテック)
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福岡PayPayドームにおけるSpotとPepperの応援ダンスの様子
(YouTube動画埋め込み ©SoftBank HAWKS)

 この応援企画は、ソフトバンクグループのロボット企業であるソフトバンクロボティクス(東京・港)とアスラテック(東京・千代田)が運用している。Spotの国内販売を手掛けるソフトバンクロボティクスにホークスからアイデアが持ち込まれ、これを技術面からアスラテックが支援する形だ。今回、両社の技術者らに取材し、前代未聞のロボット応援団の裏側を聞いた。

発案は球団オーナーの孫正義氏、ダンス振り付けは未公開の専用ツールで

 ホークスがSpotによる応援企画を始めたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で観客の動員を制限しているホームゲームを盛り上げるためだ。球団オーナーの孫正義氏のアイデアが発端だったという。まず、6月のホークスの開幕戦にPepperだけの応援団が登場し、7月に入ってからSpotも加わった。現在は試合中2回(5回裏終了後と7回裏攻撃前)のダンスに加え、試合前にチアダンスチームと一緒にホークスの旗を掲げたSpotがグラウンドを練り歩いたり、3回表終了後に開催される着ぐるみのレース「ホットドッグレース」にSpotが走者として参加したりするプログラムも追加している。

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4脚ロボット「Spot」、人型ロボット「Pepper」
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4脚ロボット「Spot」、人型ロボット「Pepper」
それぞれ、福岡ソフトバンクホークスの「応援仕様」となっている。(出所:ソフトバンクロボティクス)

 動画を見ると分かるように、Spotは応援歌のリズムに合わせてなかなか軽快に動く。この振り付けにはボストン・ダイナミクスがダンスモーション作成向けに開発した専用ツール「Choreographer」を使っている。「動画編集ソフトのような感覚でダンスを設計できる」(アスラテック技術普及推進部兼事業開発部部長の今井大介氏)ツールだが、一般には現段階で未公開。SpotのSDK(ソフトウエア開発キット)にも含まれていないという

* ボストン・ダイナミクスはSpotのSDKや仕様を記したドキュメントをインターネット上で公開している。

 さらに今回、応援ダンスを踊っている20台のSpot本体も一般市販モデルとは少し仕様が異なるという。ハードウエアは共通だが、「ダンス用のカスタムファームウエアを組み込んである。一般に販売するSpotのそれとは異なる」(ソフトバンクロボティクス 事業開発本部事業推進統括部Humanoid事業部部長の山本力弥氏)という。

 Choreographerでは基本となる30種類の基本モーションがあらかじめ用意されており、これを組み合わせて音楽に合うダンスに仕上げた。基本モーションとは、例えば「ステップの踏み方」「本体の姿勢」といった内容で、「歩幅の長さ」「本体の高さ」などのパラメーターを調整しながら、本番のダンスに近づけていった。今回のダンスは、Choreographerが生成したSpot向けのダンスプログラムをそのまま使っており、ソースコードを直接編集して改良するといった作業はやっていないという。

 では市販モデルのSpotと公開SDKを使って今回のようなダンス動作はSpotにプログラムできるのだろうか? アスラテック今井氏の答えはノー。「Spotは産業用途の製品。SDKもそうした用途を意識して作られており、ダンスのような動きを振り付けるのは難しいだろう」と説明する。Choreographerもアプリケーションソフト(バイナリー)の状態で提供されており、ソースコードはアスラテックの手元にはなく、内容の解析ができるものではないという。