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 安倍晋三首相が辞任を表明し、約7年8カ月にわたる長期政権が終わりを告げた。この間、デジタルガバメントなど政府のIT施策はどこまで進んだのか。日経クロステックが過去に掲載した記事を参照しつつ、改めて検証したい。

政府CIO、マイナンバー、個情法委員会で成果

 この7年余の間、政府が打ち出したIT政策について一定の成果がみられたのは間違いない。民主党政権のIT政策を引き継ぐ形とはいえ、政府システム改革の司令塔となる「政府CIO」の設置と、行政の業務効率を高める切り札「マイナンバー制度」の導入を実現した。

 産業に関わるIT政策では、変化の速いビッグデータ時代に合わせて個人情報保護法を2度改正したほか、同法の監督権限を持つ「個人情報保護委員会」の設置も実現した。GAFAの台頭に備えて公正取引委員会を中心に新たな競争政策を示し、プラットフォーマー規制に切り込んだ。

 だが、安倍政権にとっての最終年度となる2020年に直面した新型コロナウイルス禍を通じて明らかになったのは、日本のデジタル変革が他国より決定的に遅れている事実だった。

 このことは、政府が2020年7月17日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ」(骨太方針2020)にも表れている。

 基本方針2020はコロナ禍の対応について「受給申請手続・支給作業の一部で遅れや混乱が生じるなど、特に行政分野でのデジタル化・オンライン化の遅れが明らかになった」と分析。「デジタル・ガバメントの構築を、早急に対応が求められる、言わば一丁目一番地の最優先政策課題として位置付ける」と表明した。

 「一丁目一番地の最優先政策課題」という文言には、危機の克服に向けた政治のリーダーシップが感じられる一方、一抹の不安を呼び起こす言葉でもある。

「穴」を埋める拙速な対策が失敗につながる

 ここ7年余のIT政策を振り返ると、大きな危機や失敗が生じた後に、危機を克服する策を講じる「危機駆動(Crisis-Driven)」の側面があった。そしてこの点が、IT政策のさらなる遅れや失敗を呼び起こしているようにみえる。

 例えば同政権が個人情報保護法を2度にわたり改正した際には、直前に発生した事件で明らかになった「穴」を埋めるための議論が目立った。例えば2015年の改正は「Suica乗降履歴販売」と「ベネッセ個人情報流出事件」、2020年の改正は「リクナビ問題」が規制強化の引き金になった。その一方で、「データの保護と利活用の両立を目指す基本方針の策定」といった骨太の議論はおざなりになった。

 危機の原因となる「穴」を埋めるため拙速に打ち出した対策は、しばしば現場の実情を無視したものとなり、失敗を招く。日本年金機構からの情報流出を機に18億円をかけて構築されたものの、一度も使われずに撤去されたセキュリティーシステムはその一例だろう。

 そして今回、特別定額給付金のオンライン申請などコロナ対策を巡る失敗の「穴」を埋める方策として基本方針2020に明記したのが、「地方自治体の基幹系業務システムの統一・標準化」だった。

 約2000の地方自治体がバラバラにシステムを開発した結果、政府―自治体間で業務やシステムの連係が取れなくなる。この問題は、第2次安倍政権が発足した2012年当時も課題として認識されていた。

 だが同政権は、システム改革を主導する政府CIOの法的権限を決める国会での議論の中で、政府CIOの権限は自治体に直接及ぶものではないとした。この結果、政府CIOが自治体システムの標準化などでリーダーシップを取るのは困難になった。この結果、自治体システムの改革を巡る議論は遅々として進まなかった。