「AIよAI、世界で最もリチウム(Li)イオン伝導率が高い高分子材料とその合成時の最適な加熱温度は何℃ですか」―。こうした質問にAI(人工知能)が答えるようになるのももはやSFではなくなりつつある。
早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 応用化学専攻/先進理工学専攻 教授の小柳津研一氏と、論文1)の筆頭著者である同応用化学科 講師の畠山歓氏は、AIを材料開発に用いる技術「マテリアルインフォマティクス(MI)」の可能性を大きく広げる技術を開発した。Wikipediaなどネット上の公開データを含む、多様な異種データを統合的に活用することで、さまざまな材料の少なくとも40以上の特性値を高い精度で予測したり、最適な合成プロセスを予測したりできるようになったという。その先には、論文をそのまま入力することで機械学習を進めることさえ視野に入る。
プロセスをグラフ化し学習
畠山氏らが開発したのは、材料とその合成プロセスをナレッジグラフと呼ばれるグラフの形にした“データ”を用いて深層学習を進める技術である(図1)。文章で記述された合成プロセスを一定のルールに従って「ノード」と「エッジ」から成るナレッジグラフにする。次に、それを多次元ベクトルという形で数値化した後、グラフニューラルネットワーク(GNN)†に入力して3層程度の全結合層に通すと、プロセスの中の未知数、例えば電気伝導率の値の予測値を出力してくれる注1)。
畠山氏らがこの技術を用いて、「PEDOT-PSS」という有機半導体材料の電気伝導率をAIに予測させたところ、1600 S/cmと値を出力した。測定値は1300 S/cmだが、PEDOT-PSSは合成プロセスのパラメーターが少し変わるだけで1万倍も電気伝導率が変動する材料。23%のズレでの予測は、「化学実験の熟練者並みの精度」(早稲田大学)という。
電気伝導率の代わりに出発材料やプロセス途中の洗浄過程が未知情報だったとしてもAIは正しく答えられる。