米Intel(インテル)は、モバイルPC(薄型軽量ノートPC)に向けたマイクロプロセッサー(MPU)の新製品「第11世代Intel Core Processorファミリー」(以下、第11世代Core)を発表した(ニュースリリー ス)。開発コードがTiger LakeのMPUである。IntelはTiger Lakeの技術的な内容を2020年8月中旬に行われたプライベートイベント「Architecture Day 2020」とプロセッサー関連の国際学会「Hot Chips 32」で発表している*1。
Intelが米国時間の20年9月2日に行った新製品発表のポイントを、日本法人のインテルは9月3日に日本の報道機関に向けてオンラインで説明した*2。IntelはCoreの新製品を発表する際に、新製品の性能向上をアピールするために既存製品との比較を紹介するのが恒例である。かつては比較対象は数年前に発表した同社製品というのが当たり前だった。既存製品が載ったPCの買い替え需要を喚起する効果を期待してのことだろう。
一方、Intelを追う米AMD(Advanced Micro Devices)が新製品を発表した際の比較対象はIntelの競合製品である。Intel製MPU搭載PCからAMD製MPU搭載PCへの乗り換えを喚起する効果を狙っている。Intelの発表会でAMD競合品との比較に関して報道機関が質問すると、かつては「他社のことについてはノーコメント」というのが定石だった。
最近はIntelの新製品発表会でもAMDの競合品との比較を示すこともあったが、自社の既存製品との比較が基本という路線は変わらなかった。ところが今回の第11世代Core発表会では、比較の俎上(そじょう)に乗せられたのはAMDの競合品。実際、ニュースリリースの要点の最初の項目は、AMD競合品比の優位性である。インテルが見せたスライドにも、新製品対AMD競合品の比較が多数紹介されていた。AMD製MPU搭載PCへの乗り換えを阻止する狙いを感じる。
Intelの変化には、同社の危機感が透けて見える。数年前に比べてAMD製MPUの評価が随分と上がった。最近はPC関連の雑誌やオンラインメディアにおける専門家による評価において、「同じような価格ならば、AMD製MPU搭載PCの方が高性能でお得」といったコメントが増えている。AMDの追い上げが強烈で、Intelの尻に火が点き、とても涼しい顔ではいられない状況であることがうかがえる。
Intelが窮状に陥った理由の1つは製造プロセスの開発遅れである。例えば第10世代Coreでは第1弾は10nmプロセス製品だったものの、第2弾以降はすべて14nm製品に戻ってしまった*3。10nmプロセスの歩留まりが十分でないことがうかがえる。Intelによれば同社の10nmプロセスは、TSMCの「N7」など、他社の7nmプロセスに相当するという。その「N7」で先端MPUを委託製造するAMDはIntelとは対照的に、順調に先端MPUを市場に供給している。AMDは19年7月にN7で造るデスクトップPC向けRyzen 3000シリーズ*4の出荷を、20年1月にN7で造るモバイルPC向けRyzen 3000シリーズ*5の出荷をそれぞれ始めた。ちなみに、今回、Intelが第11世代Coreと比較しているのが、モバイルPC向けRyzen 3000シリーズの製品である。