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 ライエン政権は、長期予算の少なくとも25%は気候変動に充当する方針を示しているが、EU予算は加盟国総所得(GNI)の1.2%との制約がある。EIBはローンが主なので、グラント(真水)が不足する。

 次期中期予算(2021~27年)は7年間で1.1兆ユーロであるが、10年で1兆ユーロ(欧州グリーンディール投資計画)、7年で1000億ユーロ(公正な移行メカニズム)の資金需要を満たすには厳しい規模であり、別の調達手段が不可欠となる。

 そこで、長年の懸案であった共同債(Joint-Loan)発行の合意が得られるが否かが最大の焦点となっていた。

 これまで実現できなかったのは、経済効率性、環境対策で進んいる国がそうでない国を支えることに対する疑念、環境投資と銘打っても本当にグリーンなのかといった疑念があったためだ。

 特に倹約4カ国は強力に反対してきた。EU委員会は予算規模の制約を取り払い、加盟国総所得の2.0%を上限とすることとした。償還資源としては加盟国分担拠出金の増加や、独自歳入としてEU排出権取引の排出枠オークション収入の増加、国境炭素税、法人新税、プラスチック新税、デジタル課税の創設が検討されていた。グリーン投資であるかどうかの確認については、欧州グリーン投資分類の基準を長い時間をかけて整備してきた。

 状況が一変したのは、5月18日にマクロン大統領とメルケル首相が共同で全額グラントによる「5000億ユーロ復興基金」創設を提案したことである。これは、10日後のEU委員会が発表する5000億ユーロのグラントを含む7500億ユーロ復興基金創設案に結実する。

土壇場でEUを結束させたコロナ危機

 どうして、このタイミングで積年の懸案が解決したのであろうか。

 新型コロナ禍の以前から加盟国の債務は巨額であり、復興のためとはいえ、債務の著増は避けたいという財政事情はもちろんあった。

 一方でコロナ禍による南欧諸国などの経済危機は深刻で、破綻回避は時間との勝負となっていた。また、温暖化防止は待ったなしの状況であり、残された時間は少ない。ライエン新政権が最重要施策として掲げたグリーンディールに踏み出す最後の機会との共通認識や危機感により欧州はギリギリで結束できたと考えられる。

 EUグリーン投資基準の整備も大きい。原子力や石炭の比率が高い国もあるが、2018年の提案以降、立場の違いを超えて合意形成に地道に取り組んできた。

 7月17日に開始されたEU首脳会議は、久しぶりの対面会議であったが、足掛け5日におよぶ交渉を経て、21日に7500億ユーロで合意を見た。グラントは5000億ユーロから3900億ユーロに減額はしたが、歴史に残る金字塔である。復興基金を含む中期予算の3割は気候変動対策に充てられることが決まった。

 排出削減の進捗において、日本はより大きな差がつけられることが考えられる。再エネ、水素、交通システムなど次世代技術・産業に関しても差がつく可能性が高い。

 国内でもようやく「石炭火力フェードアウト」「送電インフラ運用の中立化」「洋上風力官民協議会の設立」といった気候変動対策を一歩前に進める動きが出てきた。今後、政府は実現を担保する投資計画や資金手当てを示す必要があるだろう。

 地道な交渉と準備に裏打ちされたEUの乾坤一擲ともいえるグリーンリカバリー政策は、その重要性を強く示唆するものでもある。

山家 公雄(やまか・きみお)
エネルギー戦略研究所取締役研究所長
1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、鉄鋼、食品業界などの担当を経て、環境・エネルギー部次長、調査部審議役などを歴任。金融や産業調査の経験を生かし、国際的視野から環境・エネルギー政策をウォッチしてきた。2009年から現職。2014年から京大特任教授。主な著作として、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」「テキサスに学ぶ驚異の電力システム」「再生可能エネルギーの真実」など