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 棚に整然と並ぶ検査治具(ゲージ)の1つがスポットライトで浮かび上がる。作業者がそれを手に取り検査を実施、元に戻すと、スポットライトは次に使うゲージに移る――。

図1 ジヤトコがCVT用ケースの検査工程に導入したシステム
図1 ジヤトコがCVT用ケースの検査工程に導入したシステム
1時間以上かかる検査を3台の設備でカバーする。OKIの「プロジェクションアッセンブリーシステム」を利用した。(出所:日経クロステック)
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 ジヤトコは2020年9月、富士第一地区工場(静岡県富士市)のCVT(無段変速機)ケースの検査工程に、検査作業のミスや漏れを未然に防ぐ新システムを導入した(図1)。標準作業書に沿った順番で次に使うべきゲージを指示、検査の完了も自動で記録する。「作業者が検査結果をチェックシートに書き込まずに済むなど、少なくとも約3%の工数を削減した上で検査の抜け漏れを防げる」(JEPS推進部JEPS推進課の廣崎誠氏)という。このシステムがユニークなのはプロジェクションマッピングの手法を使って、次に使うべきゲージにスポットライトを当てて光で指示し、検査完了も手の動きをカメラで検知するなど非接触で稼働すること。システムは一般的なWebカメラとプロジェクターで構成されており、従来品に比べると簡単かつ安価に導入でき、柔軟性も高い。

 コンピューターからの指示内容をディスプレーではなく、プロジェクターで投映し、棚に置かれた治具を浮かび上がらせるプロジェクションマッピングの手法を使う。作業者は作業手順を表示するディスプレーなどに視線を移す必要がなく、ヘッドマウントディスプレーやメガネ型ウエアラブル機器を装着する必要もない。OKI(沖電気工業)が富岡工場(群馬県富岡市)で実用化し、2018年10月に外販を始めた「プロジェクションアッセンブリーシステム」を今回導入した。

 開発元のOKIは組み立て工程で利用するが、ジヤトコは検査工程を対象とする点が異なる。また、OKIでは小型で大きさのあまり変わらない部品の選択ミスを防ぐ狙いがあったのに対し、ジヤトコは大小の差が大きい検査用ゲージを扱っており、作業順序の間違いや作業漏れの防止に重点が置かれている。

1時間以上かかる検査でゲージを当てる順序まで管理

 CVTケースには多くの突起や穴があり、それぞれが正確に造られているかを専用の検査ゲージを当てて検査する。検査工程で担当の作業者は対象のCVTケースを台車に載せ、ゲージを1つ棚から手に取っては検査対象部分に当て、結果の良否を記録したら次のゲージを取るという動作を繰り返す。「測定すべき場所は50カ所以上あり、ケース1基の検査に1時間以上かかる」(CVT工場第四CVT製造課の望月良彦氏)という。勤務シフトの1直(最大12時間)ごとに1基を抜き取って検査対象とする。ラインが3本あり、1日2直であるため、合わせて1日に6基を検査する計算になる。

図2 スポットライトのように検査ゲージを照らす
図2 スポットライトのように検査ゲージを照らす
次に使う検査ゲージを分かりやすく指示できる。(出所:日経クロステック)
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 ゲージと検査場所の順番は標準作業書で決まっているが、これまでは作業順を管理する方法がなく、作業者が順序を間違ったり、自分の好みで勝手に変えたりしてしまう場合がないとはいえなかった。チェックシートに筆記用具で記入する際に欄を間違えた結果、検査を飛ばす可能性も否定できなかった。

図3 作業者が所定のゲージを取りに手を伸ばしたのを検出する
図3 作業者が所定のゲージを取りに手を伸ばしたのを検出する
(出所:日経クロステック)
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図4 作業者の頭上に設けた2台のカメラ
図4 作業者の頭上に設けた2台のカメラ
奥と手前にカメラがあり、検査ゲージの棚をモニターする。カメラの間にある板は鏡で、プロジェクターの画像を反射して検査ゲージ棚に向ける役割を持つ。プロジェクターの装備位置を低く抑えるための工夫。(出所:日経クロステック)
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 新システムではゲージの棚の中で、次に使うゲージを明るく照らして指示する(図2)。これは対象のゲージの部分だけを明るくした画像をプロジェクターで棚全体に投映して実現する。作業者は次に使うべきゲージがどれかが分かりやすい。そのゲージのところに手が伸びたかどうかを、作業者の頭上に設けた2台のカメラでモニター(図3、4)。正しいゲージに手が伸びているときに限って次に進めるように管理するため、ゲージの順番の正しさを担保できる。

図5 次へ進む「OKボタン」
図5 次へ進む「OKボタン」
操作ボタンもプロジェクターが投映。その位置に手が行ったとシステムが検出し、ボタンが押されたとする。(出所:日経クロステック)
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 検査結果がOKなら作業者は棚の手前に投映される「OKボタン」に手を触れる。これもカメラで手の位置で判断して検知。検査結果をシステムが自動記録し、次に使うべきゲージにスポットを当てる。(図5)。作業者がチェックシートに記入する作業がなくなり、手間を軽減できるとともに誤りの原因もなくせた。