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 電気自動車などに使われる「炭化ケイ素(SiC)半導体」技術が、中性子を照射して体内のがんを死滅させるがん治療装置の小型化に貢献している。福島SiC応用技研(福島県双葉郡)がSiC半導体を活用し、治療に必要な中性子を発生させる加速器の小型化に成功した。従来のがん治療用の加速器と比較して、10分の1の大きさになる。

福島SiC応用技研が開発中のがん治療用の中性子照射装置
福島SiC応用技研が開発中のがん治療用の中性子照射装置
(出所:福島SiC応用技研)
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 がん治療用の加速器が小型化すると、装置を導入する病院側の費用を抑えられるメリットがある。大きい加速器を利用する場合、中性子などが外に漏れないようにするため遮蔽用の建物を建設する必要がある。一方で福島SiC応用技研の場合は装置そのものを遮蔽すればよく、医療機関は既存の部屋に装置を設置できる。建物を新たに建設する必要がないため装置の導入コストを下げられる。

 福島SiC応用技研は臨床用の中性子照射装置の製造を完了した。2021年にも京都府立医科大学付属病院で治験を開始し、2024年に医療機器としての承認取得を目指す。2020年9月4日には、アステラス製薬のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などを対象とする第三者割当増資で31億円の資金調達を完了。調達した資金は治験費用と海外での医療機器としての認証取得に充てる。

 福島SiC応用技研が開発するのは、がんを対象としたホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)向けの中性子照射装置である。BNCTはがんに取り込まれやすいホウ素(B)の同位体であるホウ素10(10B)と、中性子による核反応を応用した治療法。患者はあらかじめ10Bを含んだ医薬品を点滴し、体内のがんに10Bを取り込ませる。その後、照射装置で体外から中性子を当てる。

 照射する中性子線はエネルギーが小さく人体への影響はほとんどない。ところが10Bとは核反応を起こし、強力な粒子線(アルファ線と7Li粒子)を発生させる。これらの粒子線は体内では半径10マイクロメートル程度の限られた範囲しか広がらないため、10Bを取り込んだがん細胞を特異的に破壊する。

 BNCTについては2020年3月に国内で初めて10Bを含む医薬品と中性子照射装置が承認され、その後保険適用された。医薬品を開発したのはステラファーマで、装置を開発したのは住友重機械工業である。頭頸部がんの患者を対象としており、福島県にある南東北BNCT研究センターなどで保険診療扱いの治療が始まった。日本でのBNCTの実用化に続けと、様々な企業が中性子照射装置の開発に取り組んでいる。福島SiC応用技研もその1つだ。