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 聖徳太子が体を揺らしながら、かの有名な「十七条憲法」を書いている。あるいは馬に乗って飛び、富士山の頂上を越える――。目の前に現れる映像に思わず感嘆の声を上げそうになった。

 見ているのは古い絵の複製画だ。そこに題材として描かれている、聖徳太子のエピソードをAR(拡張現実)グラスでのぞくと楽しめるアニメーションだ。

 東京国立博物館、文化財活用センターとKDDIは2020年9月17日、5G(第5世代移動通信システム)対応スマートフォンとメガネ型ARグラスを組み合わせて文化財を鑑賞できる仕組みを企画展で活用すると発表した。企画展は「5Gで文化財 国宝『聖徳太子絵伝』ARでたどる聖徳太子の生涯」。2020年9月29日から開催する。

 3者は19年9月に5GやARなどの先端技術を活用した鑑賞体験を提案する共同研究プロジェクトを発足しており、今回の企画展はその第1弾となる。

 この企画展には2つの鑑賞方法がある。1つは「魔法のルーペ」。東京国立博物館が所蔵する国宝「聖徳太子絵伝」の高精細画像を5Gスマホで拡大して鑑賞できる。もう1つは「魔法のグラス」で、ARグラスをメガネのように装着して絵画が伝えるエピソードをアニメーションで楽しむというものだ。

 「魔法のルーペ」を楽しむには、会場に展示されている複製画に5Gスマホをかざす。スマホ画面上に聖徳太子絵伝の高精細画像が表示される。高精細画像は拡大・縮小表示できる。複製画は全部で10面あり、ここに聖徳太子にまつわる58のエピソードが描かれている。鑑賞したいエピソードをスマホ上で選ぶと、画面上には解説も表示され、音声ナレーションも流れる。

 「魔法のグラス」では、15のエピソードを1分程度のアニメーションに仕上げた。アニメーションは専門家による研究成果が基になっている。アニメーション脇にも解説が表示され、ナレーションと共に理解を助ける工夫が凝らされている。

5Gスマホで大容量画像を通信

 これらの鑑賞コンテンツの特徴は、手元の5Gスマホの画面やARグラス上で、高精細画像が滑らかに速く動くことだ。聖徳太子絵伝の1面は約190×150センチメートルの大きさ。全部で10面ある。高精細画像は1面当たり、約18億画素を持つ。

 企画展に実物の国宝は展示されず、実寸大の複製画を設置する。この複製画に向けスマホをかざしたり、ARグラスで眺めたりすることで鑑賞する。

 今回、2つの鑑賞方法には、KDDIの5Gとエッジコンピューティング技術「MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)」が使われている。MECはクラウドのデータ処理(の一部)を端末に近い場所で行い、通信時間を短縮する技術だ。高精細画像のデータはMEC対応サーバーから、KDDIの5G基地局を介して5Gスマホに送られる。基地局は東京国立博物館内に設置する。伝送経路が短いためスマホ画面上の画像をストレスが少なく拡大・縮小しつつ鑑賞できるという。

 5Gの特徴の1つであるデータ通信の低遅延性を生かすMEC技術は注目を浴びつつある。5GとMECを組み合わせた技術を活用する試みは、NTTドコモやソフトバンクもそれぞれ実証実験を行ったり体感イベントなどで披露したりしている。

 KDDIが5G/MEC技術を文化財鑑賞に活用するのは初めてで「今後も継続したい」(KDDIサービス統括本部5G・xRサービス戦略部アライアンスビジネスグループの砂原哲エキスパート)とする。

5G対応のスマホをかざし、見たい部分を拡大する。肉眼では見るのが難しい細部まで鑑賞できる
5G対応のスマホをかざし、見たい部分を拡大する。肉眼では見るのが難しい細部まで鑑賞できる
(出所:東京国立博物館・文化財活用センター・KDDI共同研究プロジェクト)
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