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 神戸で機械加工を手掛ける伊福精密(神戸市)が、2020年8月に金属3Dプリンター〔アディティブ製造(AM)装置〕で造形した酒器、その名も「Syuki」を発売した。ステンレス合金(SUS)製で価格は3万1000円と6万2000円(税別)。AMでないと造れない竹細工風の凝ったデザインではあるものの少々高価に感じる。なぜ社員50人ほどの町工場が多額の設備投資をした金属AM装置で酒器を製造し、一般販売するのか。背景には新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)の影響で狂った目算と、EV時代をにらみ逆転の発想でピンチをチャンスに変えようとする戦略があった。

伊福精密が金属AMで造った酒器「Syuki」
伊福精密が金属AMで造った酒器「Syuki」
SUS製で丸形と角形の2種類のデザインにそれぞれ大小の2サイズがある。色は銀色(Silver)、黒色(Black)、青色(Blue)の3種類。(出所:伊福精密)
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二重構造で外側を竹細工風に

 発売した酒器は竹細工のような形状の外筒と表面に家紋のような意匠をあしらった内筒を一体成型した二重構造になっている。機械加工や鋳造では決して一体物として造れない金属AMならではのデザインだ。ショットブラストをかけて表面を整えた上で、防錆(ぼうせい)機能もかねて厚さ3μmほどのイオンプレーティング*1を施してある。

*1 イオンプレーティング 蒸発させた材料をプラズマガスでイオン化させて基材に蒸着させる材料コーティング技術。

 丸形の「Smart」と六角形の「Rokkaku」の2種類のデザインに、大(Large)・小(Small)の2種類のサイズがある*2。それぞれ銀色(Silver)、黒色(Black)、青色(Blue)の3種類のカラーバリエーションを用意しており、計12種類をラインアップする。価格は、大が6万2000円(税別)、小が3万1000円(同)。同社は、これを機に金属AM装置で造る雑貨ブランド「OshO」を展開しようとしており、Syukiはその第1弾製品となる。

*2 直径と高さは、大がともに60mmほど、小がともに40mmほど。
伊福精密代表取締役社長の伊福元彦氏
伊福精密代表取締役社長の伊福元彦氏
(出所:Web取材から)
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 Syukiの開発が始まったのは2018年。酒どころである灘(なだ)地区が近いことから、かねてBtoCへの事業展開に関心を寄せていた同社代表取締役の伊福元彦氏が着目したのが酒器だった。「金属AMでしかできないことをやりたい」(同氏)と、日本の伝統工芸の風合いを金属AMで表現することに挑戦。酒ソムリエや伝統工芸の匠(たくみ)らとミーティングを重ねる中で竹細工風デザインのアイデアに行き着いたという。

日本酒を注いだ状態
日本酒を注いだ状態
ショットブラストによるざらついた表面によってぬれ性が高まり、注いだ日本酒の縁が酒器の表面に張り付いたようになる。見た目にもおいしそうに見えるのだという。(出所:伊福精密)
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新型コロナで売り上げ7割減の中

 一口に金属AM装置といっても、素材や形状によるレーザーの発振条件の見極め、レンズの清浄度の維持など造形には細かなノウハウがある。同社は3台の金属AM装置を保有しているが、それぞれに造形条件を調整しないと同じような製品に仕上がらない。所定の造形物が得られるようになるまでに1年半ほどかかった。