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 2020年9月29日、NTTがNTTドコモを完全子会社化すると発表した。筆者はこのニュースを、両社が将来への戦略をより早期に実現するために必要なこととして好意的に見ている。

 NTTドコモは1992年にNTTから分離して以来、LTEなどの通信規格を開発して世界の先頭に立って業界をけん引してきた。こうして大企業となったNTTドコモが、なぜ今、完全子会社となるのか、どのようなメリットがあるのかと疑問に思う人も多いだろう。

 報道では、今回の子会社化には、政府からの携帯電話料金の値下げ要求が影響したのではないかという見方が多かった。これに対し、私は少し違った見方をしている。

(写真:PIXTA)
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(写真:PIXTA)

値下げの影響は大きくない

 NTTドコモの経営は順調だ。ここ数年の売り上げは横ばい傾向とはいえ、営業利益は2020年度の予想においても8800億円を見込んでおり、新型コロナウイルスの影響はあまり感じられない*1

*1 財務ハイライト(年度データ) IFRS https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/ir/finance/highlight/

 さて、携帯電話料金を値下げすれば……という話だが、例えばNTTドコモの通信料金がMVNO(仮想移動体通信事業者)並みに下がるかといえば、それは無理だろう。そんなことをすればMVNOが経営危機に陥るし、KDDIやソフトバンクも非常に苦しい状況に陥る。

 このため、値下げといっても限定的になると考えている。基本料金は今後、ある程度は下がるだろう。そのため、あまり使わない人にとっては料金が下がるかもしれない。だが、携帯電話を肌身離さず持っている日本人の使い方を見ていると、結局は大多数の人が大容量の通信可能なプランを選ぶ。すると、最終的には通信料金はあまり変わらず、それほど影響はないのではと筆者は見ている。

子会社化のきっかけは恐らく5G

 それよりも、NTTドコモにとって問題なのは5G(第5世代移動通信システム)の通信インフラ整備の方だ。総務省としては、一刻も早く次世代通信網として5Gを全国に広げたいと思っているが、現状を見るとNTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの動きは予定通りとは言い難い。NTTドコモなどのキャリアが5Gに消極的なわけではく、5Gの通信網整備は特有の事情があり、簡単にはいかないのだ。

 5Gは4Gに比べて周波数が高いため、多くの基地局を設置しなければならない。すなわち、新規に多くの基地局を置くスペースを確保する必要があり、これがなかなか進まない一因となっている。また、今後も基地局を設置していくに当たり、設置費用も莫大になるだろう。その莫大な費用をどこで回収するかについては当初から問題視されていた。5Gでは個人向けの通信料金だけで利益を確保することは難しい。

 そこで、5Gでは法人向けの新たな通信利用需要を喚起し、さまざまな法人が5Gを使うようなサービスを提供していかなければならない。新たな法人向けサービスというのは、通信回線の提供だけではない。例えば、自動運転やスマート農業、遠隔医療などを実現できる高信頼・低遅延サービスや、通信網だけではなく認証やアプリケーションなどソフトウエアも含めたサービスなどが考えられる。

 このような法人向けのサービスはNTTドコモにとっても未知の領域になるだろう。そう考えるとNTTとの関係を強化することはNTTドコモにとってもメリットがある。言い換えると、ドコモ単体では5G時代においては苦しい経営になるかもしれない。日本において5Gによるスマート社会を実現するには、NTTドコモは欠かせない存在なので、今回のNTTとの関係強化で5Gの整備が進むのであれば、総務省としても歓迎すべきことだろう。

 また、基地局設置の負担に悩むNTTドコモにとっては、NTTとの関係強化によってNTTが持つ土地や基地局などさまざまな資産を活用できる可能性があるということも付け加えておきたい。