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 4脚歩行型のロボット(以下、4脚ロボ)の代表格である米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の「Spot」の市販がついに始まった一方で、中国企業が自社開発の4脚ロボを市場投入するなど米中企業が開発・販売競争を繰り広げている。日本はこの競争の蚊帳の外だ。「国内では、Spotと肩を並べる4脚ロボは見当たらない」――。産業技術総合研究所の上席主任研究員で、歩行ロボットに詳しい梶田秀司氏は現状をこう話す。

東芝の「4足歩行ロボット」
東芝の「4足歩行ロボット」
かつて、福島第一原子力発電所2号機の調査で活躍した。(出所:東芝エネルギーシステムズ)
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 ところが過去には実用化された国産4脚ロボが存在した。東芝が福島第一原子力発電所の廃炉調査で使うために開発したその名も「4足歩行ロボット」である。今から8年前の2012年に開発され、2014年までの2年間、福島第一原発の2号機で調査業務を担い、実績を上げていた。現在は使われていない。

福島第一原子力発電所向け 4足歩行ロボット(出所:東芝エネルギーシステムズ)

 Spotと比べると、東芝の4足歩行ロボットは横幅はほぼ同じだったが、「身長」はやや高かった。本体質量は65kgでSpotのおよそ2倍、積載質量は20kgで6kgほど多い。脚の自由度が12軸であることや、無線LANによる遠隔操作が可能だったことは、Spotと同じだ。

 また、段差を検知するため、4つの足先には力覚センサーを搭載していた。ロボットの脚を昇降する際、事前に正確な高さを予測するのは難しいので、センサーに反応があれば接地したとの判断を下す仕様だったという。

表 「4足歩行ロボット」と「Spot」の仕様
東芝、米Boston Dynamicsの資料を基に日経クロステックが作成
名称4足歩行ロボットSpot
開発元東芝米Boston Dynamics
初稼働・販売日2012年12月
福島第一原子力発電所の2号機に投入
2020年6月
米国でオンライン販売を開始
価格不明約800万円(7万4500米ドル)
外形寸法長さ624×幅587×高さ1066mm長さ1100×幅500×高さ840mm
本体質量65kg32.5kg
積載質量20kg14kg
脚の自由度1212
駆動方式電動モーター電動モーター
歩行速度1km/h1.6m/s
登坂角度不明30度
段差の乗り越え高さ22cm(傾斜45度の階段)30cm
センサー・カメラ×6
・足先力覚センサー×4
・加速度、ジャイロセンサー
・ステレオカメラ×5など
稼働時間2時間(連続歩行の場合)1.5時間
ソフトウエアリアルタイムOS などSpot SDK など
通信無線LAN無線LAN
その他・本体から分離して動く「小型走行車」を搭載
・防水、防塵(じん)性能はなし
・IP54相当の防水性能
・360度カメラやLiDAR、ロボットアームをオプションで搭載可

 カメラを6台搭載していたが、そのうちの4台は左右前後の周囲を監視するもので、残りの2台は前後の脚の動きを捉えてオペレーターの画面に映し出すものだった。もし、周囲との接触や転倒の恐れがあるときは人が制御を中断し、脚の位置を調整できるようにしていた。

 事故を起こした原発の内部という極限環境を想定して8年前に開発されたことを考えると単純な比較はできないが、残された動画を見る限り、歩行動作はゆっくりと慎重で、どこかぎこちなさも見て取れる。ボストン・ダイナミクスが当時既にYouTubeに動画公開していた4脚ロボ「BigDog」や、Spotをはじめとする現在の4脚ロボのような軽快さはない。

 「4足歩行型としては、世界で初めて世間の役に立ったロボットだったのではないか」――。東芝エネルギーシステムズエネルギーシステム技術開発センター機械技術開発部機構技術グループエキスパートの松崎謙司氏は、当時をこう振り返る。松崎氏は、開発チームに加わった技術者の1人。今回、同氏をはじめ、当時を知る関係者に話を聞くことができた。