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 「個人的には(NTTドコモは)サブブランドどころか、3つ4つのブランドを用意したらどうか」――。2020年10月上旬、民放の番組に出演したNTT社長の澤田純氏の口から、このような発言が飛び出した。菅義偉首相が携帯大手に対して値下げ圧力を強める中、大手3社の中で1社だけサブブランド導入に踏み切っていないNTTドコモの動向が今後の焦点として浮上している。関係者によると、NTTドコモがサブブランドの具体的な検討を進めているのは事実。サブブランドを超えたマルチブランド戦略は、TOB(株式公開買い付け)後、NTTの完全子会社となる新生NTTドコモの起死回生の一手になるか。

サブブランドの領域に1つの競争軸

 現在の国内携帯電話サービスでは、ソフトバンクやKDDI(au)がそれぞれ「ワイモバイル」「UQモバイル」ブランドで安値攻勢を仕掛ける「サブブランド」の領域が最も競争が激しい。NTTドコモ社長の吉沢和弘氏は20年7月、日経クロステックの取材に対して「今、一番動きがあるのはサブブランドの領域。(月額3000円の料金水準に)1つの競争軸ができている」との認識を示し、「(競合他社のサブブランドに)どのような志向の顧客層が動くのか。もう一度検討しなければならない」と述べた。

 吉沢氏はかねて「サブブランドを導入するつもりはない」と公言してきた。19年6月に導入した料金プラン「ギガライト」で、競合他社のサブブランドに対抗できると踏んできた。加えて、多くがNTTドコモの回線を借りて事業を展開する格安スマホ事業者も、ドコモの援軍としてサブブランド対抗の一翼を担っていた。

 実はドコモは過去数回にわたってサブブランドを検討してきた。しかし過去の検討ではいずれもサブブランド導入に至らなかった。ドコモの既存顧客が雪崩を打ってメインブランドから割安なサブブランドへと移行するとなると、収益へのインパクトは大きいからだ。ブランドごとの販路の見直しも必要になる。

サブブランドの領域で競争が激化している。大手で1社だけサブブランドを展開していないNTTドコモに注目が集まっている
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サブブランドの領域で競争が激化している。大手で1社だけサブブランドを展開していないNTTドコモに注目が集まっている
(作成;日経クロステック)

 だがここに来て、そんなドコモの戦略が揺らぎつつある。ドコモからサブブランドへの顧客流出が止まらないほか、ドコモの援軍でもあった格安スマホ事業者の競争力もソフトバンクやKDDIのサブブランド攻勢でそがれてしまっている。ソフトバンクやKDDIのサブブランドの中心価格帯である月額3000円前後の領域に楽天モバイルが、月2980円で自社エリア内データ通信無制限となるプランを投入した。現在は自社エリアが限られるため競争力を十分に発揮できていないが、エリアが拡大することでサブブランドの領域でさらに競争が激化するだろう。そのためドコモはこれまでの戦略を見直し、「サブブランド導入の検討を進めている」(関係者)という。

 そんな中での冒頭の澤田氏の発言だ。NTTは20年9月末、ドコモを完全子会社化する方針を発表した。これまで以上にNTT持ち株会社トップの発言はドコモにとって重みを増す。

 澤田氏は「ブランドを分けずにメニューで対応すると、複雑で分かりにくくなってしまう」と続ける。携帯電話の料金プランはシンプル化と複雑化を繰り返す傾向にある。顧客のニーズに応えていくと、プランは複雑化する。複雑さが限界に達すると、シンプルなプランへ見直しが進む。だがシンプルなプランでは選択肢が少なく、再びプランが複雑化する――といった具合だ。

 現在のドコモのプランは、大容量の「ギガホ」と低容量の「ギガライト」の二択だ。複雑化していた以前のプランでは、消費者の納得感を得られにくくなったとして19年6月、値下げとともにプランをシンプルに一新した。1プランしか用意していない楽天モバイルのように、現在の市場ではシンプルなプランが主流になりつつある。

 だがシンプルなプランを維持したままでは、消費者の細かなニーズに応えにくい。そこで消費者のニーズに沿って3つ4つのブランドを用意し、それぞれのブランドでシンプルなプランを維持する――。それが澤田氏の発言の真意だろう。

海外でマルチブランド戦略に成功例

 実際、過去には複数のブランドを用意したマルチブランド戦略で成功した事例がある。かつてドイツで携帯電話サービスを展開していたE-Plus(E-プルス、Telefónica Germanyが14年に買収)だ。