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 スポーツ用品大手のアシックスが開発した初のスマートシューズが話題を呼んでいる。クラウドファンディングで記録的な寄付金額を達成した新商品はどうやって生まれたのか。競合を「他の靴ではなくフィットネスジム」と位置付ける理由はどこにあるのか。開発に当たっては、技術面とマーケティング面で2つのブレークスルーがあった。

 自分のランニングフォームは正しいのか。疲れにくいフォームとはどんなものなのか──。ランニングを経験したことのある人なら、こんな疑問を抱いた経験があるのではないだろうか。アシックスが開発したスマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライド オルフェ)」はこうしたニーズに応える商品だ。

アシックス初のスマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライドオルフェ)」(写真:アシックス)
アシックス初のスマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライドオルフェ)」(写真:アシックス)
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 エボライド オルフェはソールにセンサーを内蔵し、距離やラップタイムに加えて、ストライドの大きさや着地のパターン、接地時間や角度、着地時の衝撃の大きさなどを計測する。計測データを使って、ランナーの走り方を5つの評価軸に基づいてスコア化する。

 下図のように靴と専用アプリが連動し、一人ひとりの特徴に合わせたアドバイスを音声によってリアルタイムでフィードバックする。自分では知り得なかった「自分の走り方」を見える化し、改善すべきポイントを教えてくれる。

スマートシューズと連動するアプリの画面(画面の仕様は変更になる可能性がある)(資料:アシックス)
スマートシューズと連動するアプリの画面(画面の仕様は変更になる可能性がある)(資料:アシックス)
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スマートシューズと連動するアプリの画面(画面の仕様は変更になる可能性がある)(資料:アシックス)
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 この靴の開発に当たっては、2つのブレークスルーがあった。1つは技術面、もう1つはマーケティング面である。順に見ていこう。

 技術的な特徴は、軽量化されたセンサーにある。

 共同開発者であるノーニューフォークスタジオ(東京・千代田)は、足元の動きを精緻に計測・解析する独自のセンシング技術を持つベンチャー企業。計測したデータを使い、リアルタイムでそのデータを利用者にフィードバックするプロジェクトを過去に手掛けてきた。アシックスとの出会いは3年以上前。以来、共同研究やプロモーションシューズの開発などを続けてきた。

 開発に当たって2社がぶつかった壁は、センサーの耐久性だった。「力の情報を測定するには、通常であれば圧力センサーを使う。しかし圧力センサーは耐久性に問題があり、走ることで長時間の繰り返し荷重がかかるとデータが取れなくなってしまう。そこをどう打破するかがポイントだった」。アシックスで開発を担当した同社スポーツ工学研究所の猪股貴志主任研究員は、スマートシューズの開発に当たってのハードルをこう語る。

 アシックスとノーニューフォークスタジオの2社が考えたのは、圧力センサーを使わずに、加速度センサーとジャイロセンサーから力を推定するという方法だった。センサー技術に強みがあるノーニューフォークスタジオと、ランナーの膨大な計測データを持つアシックスの長所を組み合わせたことで初めて、ブレークスルーが生まれた。2つの強みで独自のアルゴリズムを作成し、力を正確に推定することが可能になった。

 ノーニューフォークスタジオは、同社オリジナルのスマートシューズ「ORPHE TRACK(オルフェトラック)」にもセンサーを使用している。同社はエボライドオルフェの開発に当たって、センサーの小型化と軽量化を実現。オルフェトラックに載せたセンサーと比較して、50%の小型化、15gの軽量化を達成し、より違和感のない着用感を実現した。同社の菊川裕也代表取締役CEO(最高経営責任者)は、「アシックスが求める精度で、かつリアルタイムで測定するという点が当社にとってチャレンジだった」と振り返る。