電気自動車(EV)のライフサイクル全体において、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量が同じになるカーボンニュートラル(炭素中立)を目指す欧州。その1つの課題とされるのが、EV用電池の生産工程だ(図1)。
ある専門家によれば、EVの生産工程で排出されるCO2の半分強は電池の生産に伴うもの。電池の生産工程ではたくさんの電力が消費され、その電力を自然エネルギーなどの再生可能エネルギーでまかなう必要性が高まっている。そして、それが日本のEV用電池メーカーにとって欧州で巻き返す好機になる可能性が出てきた。
欧州では近年、電池のスタートアップが増えている。EVのキーテクノロジーである電池を、韓国や中国の電池メーカーに完全に握られたくないという危機感がその背景にある。だが、欧州の電池のスタートアップの大半は、EV用電池の量産実績もノウハウもない。
そこで浮上してきたのが、電池の技術で世界をリードする日本の電池メーカーとの分業という選択肢だ。PwCコンサルティングでディレクターを務める轟木光氏は、「半導体産業に見られたように、EV用電池でも研究開発フェーズと生産フェーズでの分業が進む可能性がある」と指摘する(図2)。欧州の電池のスタートアップが生産フェーズを担当し、研究開発フェーズを担当する日本の電池メーカーからセル技術や量産技術の指導を受ける。そうすれば、品質や歩留まりの高い安定したセルの生産を短期間で立ち上げられる可能性が出てくる。
欧州のEV電池市場に入り込めていない日本の電池メーカーにとっても、これはチャンスだ。欧州には、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランドといった再生可能エネルギーによる発電の比率の高い国がある。欧州の電池のスタートアップと組んで、そうした国々で電池を生産すれば、同生産工程でのカーボンニュートラルの実現に大きく近づける。しかも、欧州市場に切り込む上で不可欠とみられる欧州の生産拠点を少ない投資で確保できる上、欧州連合(EU)やEU諸国・自治体からの支援(公的融資や補助金、投資など)も期待できる*1。