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 「取引が切れるなら、自動車メーカーはそうしたいはずだ。タカタ時代にエアバッグで1度大きな嘘(うそ)をつかれている。とても信用できない」(トヨタ自動車出身のある技術者)──。ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(以下、JSSJ)が造るシートベルトで品質不正が発覚した。今後、大規模リコールに発展する可能性は極めて高い。

品質不正が発覚したJSSJのシートベルト
品質不正が発覚したJSSJのシートベルト
ウェビング(ベルト部分)の強度データ偽装が行われたとみられる。(JSSのWebサイト上の画像を基に日経クロステックが作成)
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 JSSJは、自動車用安全部品メーカーである米Joyson Safety Systems(ジョイソン・セイフティ・システムズ、以下JSS)の日本法人である。前身はタカタだ。欠陥エアバッグによる大規模リコールで1兆円を超える巨額の負債を抱えたタカタは2017年6月に経営破綻。エアバッグ事業を除いたタカタの事業を買収したのがJSSだ。なお、JSSは中国の自動車部品メーカーである寧波均勝電子の子会社である。

 品質不正に手を染めたのは、JSSJの彦根製造所(滋賀県彦根市)。シートベルトのベルト部分であるウェビングについて、20年以上前から強度データの改ざんを繰り返していたとみられる。ウェビングは、強度の高いポリエステル繊維を材料に使った織布。一般に、クルマの前部座席には低伸度の、後部座席には高伸度のウェビングが使われており、破断時の強度はそれぞれ28k~33kN、27k~28kN、伸度はそれぞれ4~7%、11~13%となっている。

前部座席と後部座席のそれぞれで求められるウェビングの仕様
前部座席と後部座席のそれぞれで求められるウェビングの仕様
(出所:日経クロステック、イラスト:穐山里実)
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* 2020年10月13日付日本経済新聞「旧タカタ、シートベルトで強度不足 出荷データ改ざん」。URLはhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO64953870T11C20A0TJ1000/

事実認定されれば大規模リコール

 シートベルトで同社と競合する東海理化は、「シートベルトは法令で定められた安全機能部品。強度などが決まっており、それを守らなければ販売できない」という。国土交通省によると、道路運送車両の保安基準の協定規則第16号(車両)に座席ベルトに関する試験が規定されており、「そこに記された試験方法および安全基準を順守しなければ、保安基準を満たさないと判断される。もちろん、リコールの対象だ」(同省自動車局審査・リコール課)。

 国交省は、品質データ偽装の「一報を受け、自動車メーカーとJSSJに調査するように指導した」(同省同課)。現在はその報告を待っている状況だという。これを受けて、親会社のJSSは「試験・製品ごとに、入手可能な20年分の関連データを収集し、検証を実施中」と発表した。JSSは日本で3割を超えるシェアを持つシートベルトメーカーだ。法令が定めた試験方法を順守しておらず、強度データ偽装を行ったことが事実だと認定されれば、大規模リコールが確定してしまう。

 自動車メーカーにとっては、まさに“寝耳に水”だ。トヨタ自動車は「JSSJから2020年9月上旬に報告があった。現在、該当部品と車両の紐(ひも)付けを進めており、調査中だ。車両への影響を確認後、必要な対応を講じる」という。「JSSJから連絡を受けており、影響規模と車種を調査中だ。今回の不正を重く受け止めている」というのはホンダである。大規模リコールに直結する問題だけに、どの自動車メーカーも緊急対応に追われている。

シートベルトのデータ偽装に対する自動車メーカー各社の対応
シートベルトのデータ偽装に対する自動車メーカー各社の対応
(出所:日経クロステック)
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 ものづくりに詳しい経営コンサルタントであるジェムコ日本経営 本部長コンサルタントの古谷賢一氏は、「JSSJの親会社であるJSSは、3つの過ちを犯した」と指摘する。[1]買収前のリスク算定、[2]買収後の品質監査、[3]内部通報への対応ーーの3つである。