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 ジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(以下、JSSJ)が造るシートベルトで品質不正が発覚した。きっかけは内部通報で、その声を同社は無視したとみられる。結果、国土交通省が自動車メーカーと米Joyson Safety Systems(ジョイソン・セイフティ・システムズ、以下JSS)側に調査を依頼。法令が定めた試験方法と安全基準(強度)をJSSJが満たしていない事実が明らかになれば、大規模リコールを避けられない事態となっている。

 もちろん、最大の責任は不正を犯したJSS側にある。だが、最終製品であるクルマの品質に対する顧客への責任は自動車メーカーが負う。品質データの偽装に気付かずに、その部品をクルマに組み込んで販売してしまった自動車メーカーに責任がないとは言えない。果たして、JSSからシートベルトの供給を受けた自動車メーカーは、強度不足を見抜けなかったのか。

品質データの偽装が発覚したシートベルト(右上)
品質データの偽装が発覚したシートベルト(右上)
ベルト部分であるウェビングの強度データが偽装されたと国土交通省に告発された。JSSは「自動車安全分野のグローバルリーダー」を自認する。(JSSのWebサイト上の画像を基に日経クロステックが作成)
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トヨタでも気付けない理由

 元トヨタ自動車の技術者でA&Mコンサルト経営コンサルタントの中山聡史氏は、「実質的に難しい」と語る。基本的に、自動車メーカーは量産用部品に対して納入時に受け入れ検査を行っていないからだ。「取り決めた品質基準(以下、顧客仕様)に関し、例えば50%もの未達品であれば、さすがにもの(部品)を一見しただけで設計的、もしくは構造的に不適合品だと分かる。だが、わずかな未達では人間の目では分からない」(同氏)。従って、そのまま適合品として自動車メーカーは受け入れてしまう。

 自動車メーカーは良品が入ってくることを前提にクルマを量産している。部品メーカーが正しく造って検査で合格した部品を、納入時に自動車メーカーが再度検査するのは、2重で検査することになり、時間やコストのムダだと考えるからだ。加えて、そもそも「製品(部品)の品質は受け入れ検査では確保できないというのが、品質管理の常識となっている」と元デンソー品質管理部の篠田孝夫氏は言う。

 例えば、「トヨタ自動車は『無検査受け入れ』を実施している」(豊田エンジニアリング代表取締役会長の堀切俊雄氏)。ただしその分、部品メーカーの品質保証能力を見極めながら、時間をかけて実績を積み上げていき、最終的に「信頼」できる部品メーカーだけに無検査受け入れを許可する。すなわち、無検査受け入れは両社にとって「信頼の証し」であり、部品メーカーはトヨタ自動車から「お墨付き」を得たことになる。

トヨタ自動車の受け入れ検査のステップ
トヨタ自動車の受け入れ検査のステップ
部品メーカーの品質保証能力を見ながら実績を積み上げていく。最初はトヨタ自動車が部品メーカーを指導して品質を確保するが、最終的には無検査受け入れに移行する。(出所:日経クロステック)
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 JSSも無検査受け入れの対象だったと見られる。まさかシートベルト事業で品質データを偽装しているとは、トヨタ自動車も思わなかったのだろう。「性善説」に立ってタカタ時代からの信頼関係を大切にしたものの、結果的に裏切られた。エアバッグで大きな品質問題を起こした企業が前身なのだから、「性悪説」に立ち、改めてJSSに対して厳しい品質監査を実施すべきだったのではないか。

開発段階で評価項目と評価条件を取り決めたのか

 中山氏は、「量産に入ってからは無理でも、開発段階では自動車メーカーが品質不正を見抜く方法はある」と指摘する。

 開発段階では、量産時の品質のばらつきを見越して開発を進める。このとき、幅広い項目と条件で品質のばらつきが顧客仕様に収まるように開発プロセスを定めなければならない。だが、「きちんとした開発プロセスを持たず、品質のばらつきを制御できない日本メーカーは少なくない。JSSもそうだったのではないか」(同氏)。

 分かりやすく言えば、ある特定の条件では強度を満たすため、品質データの偽装は表に出てこない。だが、別の条件のときには強度不足に陥るシートベルトだった可能性があるという指摘だ。これを防ぐには、自動車メーカーが部品メーカーに対し、評価項目と評価条件に抜けがないかどうかを確認するとよいという。例えば、「耐久性」という項目を指摘し、そのデータをどのように評価して開発プロセスに織り込んだのかに関する詳細な説明を部品メーカーに求めるのだ。これにより、品質不正の芽を摘み、良品を納入できる確率を高められる。

開発段階で品質不正を防ぐ仕組み
開発段階で品質不正を防ぐ仕組み
自動車メーカーと部品メーカーの間で、品質保証において必要な評価項目と評価条件を抜けがないように取り決める。そうしないと、部品メーカーが特定の条件だけでしか品質を満たさない不適合品を納入するリスクが生じる。(出所:日経クロステック)
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 「自動車メーカーは、JSSとの間で開発プロセスにおける評価項目と評価条件をきちんと取り決めたのだろうか。それを行っていれば改ざんの余地がなくなり、JSS側は品質データの偽装ができないし、仮に偽装したとしてもすぐにばれただろう」(中山氏)。