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 東京証券取引所で2020年10月1日に起きた大規模システム障害の真因が分かった。富士通が作成したNAS(Network Attached Storage)のマニュアルに不備があり、東証と富士通はそれを5年以上見逃していた。東証はこれまで、システムを停止させないという「Never Stop」を掲げてシステムの信頼性を高めてきたが、今後はシステム障害が発生しても短時間に復旧させるという「レジリエンス(障害回復力)」も重視する方針に大きくかじを切る。

 「非常に力及ばずというところを痛感している」。東証が10月19日に開いた記者向け説明会で、同社の横山隆介常務執行役員は唇をかんだ。東証は2005年、2012年など過去に大規模なシステム障害を引き起こし、そのたびに対策を講じてきた。それでも今回の事態を防げなかった。

東京証券取引所の横山隆介常務執行役員
東京証券取引所の横山隆介常務執行役員
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 東証は今回のシステム障害で、全銘柄の終日売買停止に追い込まれた。全銘柄の売買を終日停止したのは、東証が取引を全面的にシステム化した1999年以降で初めてだ。

 金融庁も東証のシステム障害を重く見ている。金融庁は障害発生翌日の2020年10月2日、東証と親会社の日本取引所グループ(JPX)に対し、金融商品取引法に基づく報告徴求命令を出した。東証とJPXは10月16日、金融庁に原因や再発防止策などを盛り込んだ報告書を提出した。金融庁は東証に立ち入り検査を実施し、行政処分を検討しているとされる。

NASのメモリー故障が発端

 システム障害の経緯はこうだ。東証が株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」の異常を検知したのは10月1日午前7時4分。複数のサブシステムが共通で使う銘柄やユーザー情報などを格納するNASに対するアクセス異常を示す大量のメッセージを検知した。その後、社内で利用する売買監理画面が使えなくなり、さらに相場情報の一部が配信できなくなった。

 arrowheadを開発する富士通と確認作業を進めたところ、Active-Activeの2台構成で冗長化していたNAS全体が使えない状況であることが分かった。本来ならNASにメモリー障害が起きても、もう1台だけの運用に自動で切り替わるはずが、そうならなかった。

 東証と富士通は何度もNASの切り替えを試みたがうまくいかず、午前8時36分に全銘柄の売買停止を決めた。通常は社内の売買監理画面から売買停止の操作をするが、NASの機能不全で使えなかったため、arrowheadと取引参加者をつなぐネットワークの接続を午前8時54分に遮断した。

 約30分後の午前9時26分、両社は手動でNASの切り替えに成功。売買再開に向けて、arrowheadの再起動を検討し始めたが、ここで大きな壁にぶつかった。証券会社などにヒアリングしたところ、対応できる証券会社が限られたのだ。

 「(arrowheadを再起動すれば)証券会社は通常と全く異なる管理をしなければならず、その対応に相当の混乱が生じることが予想できた」(東証の川井洋毅執行役員)。そのため、東証は午前11時45分に終日売買停止という苦渋の決断を下した。横山常務執行役員は「想定外という言葉は使いたくないが、ある意味(対応が)後手に回ったのは事実としてあったと思う」と悔しさをにじませる。