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 全国の自治体が相次いで押印廃止を打ち出すなか、宮崎県都城市は発注先企業などと結ぶ電子契約の実証実験を始めた。ただし現段階では法制度の改正がなければ本格導入は難しいという。「脱・はんこ」が注目されがちだが、都城市の取り組みからは行政のデジタル化を阻む壁が見えてくる。政府は押印廃止だけでなく、契約を含む業務全体を効率化する制度見直しに取り組む必要がありそうだ。

 都城市が実証実験で導入したのはインフォマートが企業向けに提供する電子契約のクラウドサービス「BtoBプラットフォーム契約書」である。同市は2020年9月に企業が最先端技術などを提案する実証事業の「デジタルトラスフォーメーションチャレンジプロジェクト」で第1号の電子契約を締結したという。

宮崎県都城市のWebサイト
宮崎県都城市のWebサイト
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 具体的には企業との契約を承認する権限を持つ職員がBtoBプラットフォームのアカウントを持って電子契約ができるようにした。電子契約を交わすには都城市が受注企業にメールを送ってBtoBプラットフォームの無料アカウントを持ってもらう。

見積書や請求書、監査のデジタル化で効率アップ

 ただ、現行法では自治体と企業の契約にインフォマートなどの特定認証業務と呼ばれる一般的な電子契約サービスの利用は認められてないため、都城市は原本となる紙の契約書の作成と電子契約の双方の作業が必要だ。また、新規の取引先企業に電子証明書を発行する際に必要となる本人確認をどう進めるかは今後の検証課題という。

 それでも都城市が電子契約サービスを使った実証実験を始めたのは大幅な業務の効率化ができると見込んでいるからだ。契約だけでなく見積書のやりとりや発注、納品、請求といった一連の商取引のデジタル化が可能になるという。

 都城市は2020年9月から電子契約だけでなくインフォマートの「BtoBプラットフォーム見積書」の実証も始めた。当初予算の参考資料として企業に依頼する見積書の作成や、企業から受け取った見積書の保管や開封状況の確認、質問・回答の履歴管理といった関連業務をWebで一元化できる。

 契約や見積もりといった一連の商取引をデジタル化できれば、自治体が定期的に行う監査業務も効率化する。パソコンを使って業者名や案件名などによる検索が可能になるからだ。過去の書面を保管してきた書庫も大幅に削減できる。行政機関の押印廃止や契約だけの電子化だけではなく、業務全体の効率化という本来のデジタル化の目的を達成できるというわけだ。都城市は「新型コロナウイルス禍でシステムを使えばペーパーレス化して接触を回避できる。企業は印紙税の負担もなくなる」(総合政策課)と効果の大きさを語る。

地方自治法が電子契約の壁に

 都城市の事例から分かるように、現段階では原本となる紙の契約書を別途作る必要があるなど自治体の業務全体をデジタル化するのは難しい。要因は地方自治法にある。同法により、自治体が電子契約を結ぶ際に利用できる電子証明書が限られている。公共工事などの電子入札に使われる認定認証業務と呼ばれる9社の電子証明書や、マイナンバーカードにある電子署名用の電子証明書、商業登記に基づく電子証明書しか利用できなかった。

 総務省は2020年9月に施行規則を改正して、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の地方公共団体組織認証基盤(LGPKI)の電子証明書も新たに利用できるようにした。「自治体による電子契約の導入は広がりやすくなった」(総務省行政課)とするものの、特定認証業務の電子契約サービスの電子証明書は使えないままだ。

 印紙税負担の違いも、自治体への電子契約の導入を阻む要因の1つだ。国や自治体といった行政機関は非課税だが、企業は印紙税を負担する必要がある。そのため受注者の企業が電子契約を望んでも、立場の強い発注者の行政機関が率先して電子契約に切り替えない限り紙の契約書が残る要因になっていた。