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 富士通研究所がゲート方式の量子コンピューター開発に本格的に乗り出した。2020年10月に東京大学、大阪大学、オランダのデルフト工科大学と共同研究を開始した。「万能」とされる誤り耐性量子コンピューターの実現に向けて、デバイスからアルゴリズム、アプリケーションまで全レイヤーの開発に取り組む。

 富士通研がゲート方式の量子コンピューターの研究開発を本格的に進めるのは初めてだ。後発ながら、実現は20~30年先とも言われる誤り耐性量子コンピューターの開発に取り組むのはなぜか。

配置転換と新規採用で量子アルゴリズム人材を増強

 「本年度から量子コンピューター研究開発に投資していくと判断した。基礎研究ではなく開発として、20~30年先を見すえ内部で中核人材も育てていく」と富士通研究所ICTシステム研究所の赤星直輝所長は説明する。先端的な高速コンピューティングの研究開発を担当する研究者約100人からなる所内のグループに、量子コンピューターのチームを新設した。人材確保には所内の配置転換のほか、量子アルゴリズムなどが専門の研究者の新規採用を進め増強する。

 量子アルゴリズム開発に注力しながらも、先行する大学や企業との共同研究で、物理層である量子デバイスから、論理層である量子アルゴリズム、応用層である量子アプリケーションまで全レイヤーの開発を進める。

 量子デバイスは、超電導方式を開発する理化学研究所創発物性科学研究センターグループディレクターを務める東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信教授のグループと、ダイヤモンドスピン方式の量子デバイスを開発するデルフト工科大学のグループと組み、まずはこの2種の方式の実用化を模索する。中村教授は1999年に当時NEC基礎研究所で世界で初めて超電動ビットの動作実証をした研究者として知られる。理化学研究所和光キャンパスに富士通研の研究者を派遣し、デバイス開発を進める。

 理論では量子誤り訂正アルゴリズムが専門の大阪大学大学院基礎工学研究科の藤井啓祐教授と組んだ。効率的な誤り訂正アルゴリズム開発とその実装に加え、従来のコンピューター(量子コンピューターに対して古典コンピューターと呼ばれる)と連携した誤り訂正に取り組む。

富士通研究所が取り組む量子コンピューターの研究開発領域。ハードウェアからアルゴリズム、アプリまですべての領域を対象とする
富士通研究所が取り組む量子コンピューターの研究開発領域。ハードウェアからアルゴリズム、アプリまですべての領域を対象とする
出所:富士通研究所
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組み合わせ最適化問題を解くだけでは課題解決できない

 目標に見据えるのは、量子コンピューターの本命である誤り耐性量子コンピューターの実用化だ。現在米Google(グーグル)や米IBMが提供する量子コンピューターは「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer、ノイズがありスケールしない量子コンピューター)」と呼ばれるもので、量子化学シミュレーションなどで活用が模索されているが、利用には限界がある。富士通研が2020年3月に開始したカナダQuantum Benchmark(クオンタムベンチマーク)との共同研究もNISQを対象としたエラー耐性アルゴリズムの開発だ。

 これに対し誤り耐性量子コンピューターは古典コンピューターと同様に汎用(はんよう)処理が可能で、古典コンピューターでは不可能な高精度で超高速の計算ができるようになる。世界的にも今後数年はNISQの有効活用の模索が続くが、その先の誤り耐性量子コンピューターを目標とする流れがある。

 ただハードウエア、アルゴリズムともに実現のメドは立っていない。量子コンピューターの性能は「0」と「1」の情報を「重ね合わせ」た状態で保持できる量子ビットの多さや、量子ビットの読み出しに関わるエラー率の低さなどによって決まるが、誤り耐性量子コンピューターの実現には量子ビット100万以上に加え、エラー訂正のアルゴリズムなどによる精度向上が必要となるためだ。