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 福岡市は行政手続きに求めていた書類への押印を、市が単独で見直しができる約3800種類の書類全てで2020年9月までに廃止した。手続きに使われる全書類の8割に相当する。押印をなくすことで手続きのオンライン化や簡略化を推進する狙いだ。

押印不要な手続きの書類は当初700に過ぎなかったが1年9カ月で3800まで拡大した
押印不要な手続きの書類は当初700に過ぎなかったが1年9カ月で3800まで拡大した
出所:福岡市
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 残る2割の書類900点は国や県の法令により現在は押印を不要にできない。ただし菅政権は押印の原則廃止を全省庁に指示し、市区町村で受理している婚姻届などで検討が始まっている。福岡市は、国や県で押印廃止が決まった手続きも速やかに対応する方針だ。

 福岡市が押印廃止を強力に推進できた背景には、1つの考え方があるという。本人確認手段として曖昧だった認め印は求める必要がなく、別の手段に置き換えられるというものだ。対面による本人確認が必要な手続きもあるが、現状維持ではなく利用者目線で利便性を向上させる策を採っている。オンラインで事前に必要な情報を入力することで、役所で並ぶことなく済ませられる手続き方法の導入などだ。

 国が脱ハンコに舵(かじ)を切る2年近く前から、福岡市はこうした利用者目線での行政手続き改革に取り組んできた。その経験は、後に続く形になる国や他の自治体にも参考になるヒントがある。

氏名の記入だけで本人確認になる

 2019年1月に着手してから1年9カ月で達成した。改革の号令をかけたのは、福岡市に国家戦略特区を誘致するなど改革派で知られる高島宗一郎市長だ。市長の就任前に役所で手続きに待たされたという個人的な経験が、脱ハンコの発想の原点になったという。

福岡市の高島宗一郎市長
福岡市の高島宗一郎市長
撮影:荒川修造
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 市長の指示を受けて、押印廃止は行政手続きに関わる全ての部署がそれぞれ押印廃止を検討する形で進めた。基本的な発想は、厳格さが求められない本人確認は認め印ではなく別の手段に置き換えられるという考え方だ。

 その一例が、手書きの氏名の記入そのものもが本人確認として機能すると判断した手続きだ。保育所の入所手続きなどに関する「教育・保育給付認定申請書」はこの方法を採用して押印欄を省き、押印に代わる署名欄なども設けなかった。婚姻届など国の制度で求めている認め印も全面廃止できれば、福岡市の手続きで残る押印は不動産関連など実印が必要な手続きだけとなる。

 オンライン化した手続きは、別の手段で本人確認したり、厳格な本人確認が不要と割り切ったりしている。例えば、50ほどの手続きをオンラインで利用できる「福岡市インターネット手続サービス」は、水道の利用開始届や飼い犬の死亡届で本人確認を不要にした。水道の利用開始は住民票などで世帯主情報を確認するほか、水道局職員による開栓時に居住状況を確認できる。犬の死亡届は飼い犬の登録届と照合可能だ。