汚泥に電極を設置することで、発電するのと同時に浄化もできる――。そんな夢のような技術が実用化に向けて動き始めている。
佐賀大学教授の冨永昌人氏は2020年9月末、九州電力グループのニシム電子工業(福岡市)と共同で、微生物の化学反応を利用する電池を水田で使い、気温などのデータを無線伝送する実験を始めたと発表した(図1)。同電池を汚泥で使うと、浄化しながら発電量を最大約1000mW/m2と大きくできる見込みがある。上下水道の整備されていない新興国などで使えば、汚泥の浄化とともに、天候に左右されずに環境データを安価に収集する仕組みを構築できる可能性がある。冨永氏は「今後2~3年で実用化したい」と意気込む。
冨永氏らは20年8月から、微生物電池を水田で使い、屋外の気温や水量などのデータを無線伝送する実証実験を始めた(図2)。同年9月末までには水田の泥で発電できることを確かめた。実験は続いており、次の段階でコンデンサーに充電し、400mW必要な特定小電力無線(920MHz帯)を使ったデータ伝送を実現する計画だ。
100年以上研究されてきた微生物電池だが、発電量が小さいことが課題だった。冨永氏は、酸素が少なく微生物の多い汚泥の浄化に使えば発電量を大きくできることに新しく着目。汚泥で発電し、センサーデータを頻繁に無線伝送する新しい「環境センサー」の実現を目指す。
微生物電池は、微生物が汚物や落ち葉などの有機物を分解すると、電子と二酸化炭素を放出する現象を利用したもの。汚泥で発電量が大きくなるのは、電子を放出する微生物が酸素の少ない環境を好むからだ。過去の研究は、酸素の比較的多い水辺を対象にしたものが多く、微生物のいる土壌を容器の中に入れ、さらに窒素ガスなどで満たす必要があった。これでは微生物が少なくなり、発電量も限られる。汚泥には酸素がほとんどなく容器が要らないため、多くの微生物を発電に利用できる。天候で発電量が左右されることもない。