米Pennsylvania State University(ペンシルベニア州立大学)や同University of Delaware(デラウェア大学)の研究者は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、硫黄(S)、セレン(Se)などから成るCIGS(Cu-In-Ga-S/Se)系でこれまでにない斬新な構造の太陽電池を共同で提案した。2019年の数値シミュレーションでは、CIGS系太陽電池単独で変換効率27.7%1)。2020年にはInやGaの代わりに亜鉛(Zn)やスズ(Sn)を使うCZTSSe(Cu-Zn-Sn(Tin)-S/Se)系との“タンデム構造”にすることで、変換効率34.45%が得られたという2)。実際のセルでこれを再現できれば、既存の超高効率太陽電池であるガリウムヒ素(GaAs)系多接合太陽電池に匹敵する変換効率を約300分の1の価格で実現でき、太陽光発電の発電コストを大幅に下げられる可能性がある。
23%で効率向上が頭打ちに
CIGS系太陽電池は2010年代前半に変換効率の値が大きく向上し、2014年には22%台のセルが開発された。その勢いが続けば2010年後半にも、20%台後半の変換効率の実現が可能と考えられていた。しかし、実際には2015年以降、変換効率向上が伸び悩み、単接合型では23.4%で頭打ちになっている(図1)。他のタイプの太陽電池、具体的にはペロブスカイト系や有機薄膜太陽電池の変換効率が最近大きく伸びている中、CIGS系やCZTSSe系の停滞ぶりは目立つ。
こうした中、Pennsylvania State University 教授のAkhlesh Lakhtakia(アカレシュ・ラクタキア)氏らは2019年、変換効率で27.7%を実現可能とする、単接合CIGS系太陽電池の構造を提案した(図2)。特徴は、p型半導体であるCIGS材料の組成を太陽電池セルの厚み方向で連続的に変化させ、バンドギャップ†の数値を複雑に制御している点だ。
多接合太陽電池のまねは失敗
CIGS系材料はCu、In、Ga、S、Seという5種類の材料の組成を変えることでバンドギャップの値を約0.9~2eVの範囲で変えられることが知られている。こうした性質を利用すれば、1つの太陽電池セルの中で複数のバンドギャップを備えたGaAs系多接合太陽電池のような超高効率を実現できるのではないかと考えられてきた。しかし、実際にはそうした試みでも変換効率は大きくは伸びなかった。
GaAs系多接合太陽電池はバンドギャップの材料ごとにp-n接合を作り、それを複数重ねているのに対し、CIGS系では単接合のまま、p型半導体のCIGS層のバンドギャップに厚み方向で勾配を持たせる(図2(b))。この違いが、キャリアの流れを悪くし、せっかく発生した電子と正孔がうまく正極と負極に分かれずに、その多くが正極(裏面のモリブデン層)付近で再結合して熱として失われてしまうためと考えられている。