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 総務省は2020年10月27日、携帯電話料金の値下げを促すための競争促進策をまとめた「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表した。携帯電話大手3社を料金競争の圧力にさらすべく、総務省が今できる政策を総ざらいした内容で、14の施策が並んだ。

携帯電話市場の競争促進政策「アクション・プラン」を説明する武田良太総務相
携帯電話市場の競争促進政策「アクション・プラン」を説明する武田良太総務相
(出所:総務省)
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 ただし、その多くは料金値下げを掲げた菅義偉政権の発足前から取り組んできた既定路線の政策だ。今回初めて打ち出された政策は一部あるが、即効性や実現性に疑問符が付く。総務省が打てる手は出尽くした感がある。

 くしくも、アクション・プラン発表翌日の2020年10月28日には、KDDIとソフトバンクが傘下のサブブランドからデータ容量20ギガバイトで月額4000円前後となる新料金を発表した。料金値下げの実績を急ぐ新政権には、競争相手となるMVNO(仮想移動体通信事業者)が大手を脅かす存在になるまで待つ余裕はない。値下げの実現は競争促進よりも、大手3社が自主的に打ち出す新料金プランに委ねられている現状が続きそうだ。

eSIMも携帯メール持ち運びも効果は限定的

 総務省はアクション・プランの中で、3つの柱に分けて14の施策を打ち出した。このうち新政権が新たに打ち出した施策は4つである。

総務省が公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の概要
総務省が公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の概要
(出所:総務省)
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 具体的には、利用者が携帯電話会社を乗り換えやすくするための「eSIMの促進」と「キャリアメール(携帯電話メール)の持ち運び実現の検討」、総務省が開設する「携帯電話の料金やサービス選択を啓蒙する新サイト」、そして「携帯電話の周波数割り当てで加味される新たな審査条件」――である。ただし、いずれも即効性や実現性は未知数だ。

 電波経由で契約者情報を書き換えられるスマートフォン(スマホ)埋め込み式のSIMである「eSIM」は、普及すれば携帯電話会社の乗り換えを容易にする1つの要因にはなる。ただ対応するスマホは現時点で米Apple(アップル)のiPhoneシリーズが主流で、Android OS搭載スマホの対応機種はまだ少ない。

 携帯大手3社もeSIMには消極的で、消費者の理解も追いついていない。仮にeSIMを普及させるなら、大手3社に対して主流の携帯料金プランでeSIMの契約が選べるよう対応を義務付けするくらいの強力なルール化が必要になる。それでも競争促進の効果は対応製品が少ないため限定的といえる。

 2番目の携帯電話メールの持ち運び制度は、利用者が解約した後も携帯電話会社が継続的にメールを転送するなどで、既存のメールアドレスを使えるようにする方法などが候補に挙がっている。スマホの普及でキャリアが提供する以外のメールサービスが普及しつつあるものの、現在も携帯メールを重要な連絡手段として使い続けている利用者には一定の乗り換え促進効果はある。ただし制度化された場合には、MVNOも対象になるのか、メール転送の費用をどう計算して誰が負担するのかなどが課題となる。

 総務省が次々と乗り換え促進策を打ち出す状況に対して、2020年10月24日に開かれた有識者会合では「政策の費用対効果を検証すべきだ」(野村総合研究所の北俊一コンサルティング事業本部パートナー)という声が上がった。総務省が制度の検討を推し進めるなら、同時に「利用者にとって何が乗り換えの障壁になっているか」「どの制度が障壁を下げるのに費用対効果が高いか」について、利用者調査などから分析し、政策に反映する必要性も高まっている。