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 社会問題化したネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策として、投稿者を一段と特定しやすくする制度の見直しに一定の結論が出た。新たな裁判制度を創設し、情報開示に関する裁判手続きを2回から1回に減らす方向が固まった。

 中傷の投稿先がネット掲示板からSNS(交流サイト)に広がっている現状を反映し、被害者が開示請求できる情報の範囲も広げる。投稿時のIPアドレスなどだけでなく、SNSなどへのログイン時の情報を新たに追加。投稿者を一段と特定しやすくする。

 ただし実際に効果を上げるかは読み切れない。関係者からは「ネットサービス運営事業者が裁判にどう対応するかに依存する」といった指摘が出ているからだ。裁判手続きが簡易になると「制度乱用の恐れがある」とする慎重論も根強い。制度改正をきっかけに、しばらくは判例を重ねながら、政府が制度運用を慎重に検証していく必要がありそうだ。

1回の裁判で投稿者を特定できるようにも

 裁判制度の改正に当たっては、総務省の有識者会合「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が2020年11月12日に報告書案を取りまとめた。同研究会は2020年12月4日まで一般から意見を募り、2020年12月中の会合で最終報告書を公表する予定である。

 報告書案の実現には、投稿者情報の開示範囲やその手続きなどを定めた「プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」の改正が必要になる。総務省で同分野を担当する消費者行政第二課は「できるだけ早く法案を提出したい」と話す。2021年1月に召集される次期通常国会に提出できるかは未定とするが、2021年内には提出されるとみられる。

 総務省が同研究会を立ち上げたのは2020年4月末。直後の2020年5月にプロレスラーの女性がSNSでの中傷を苦に自殺したとされる事件が起こり、同研究会の議論を含めた政府の対策に注目が集まった。

 研究会で議論の焦点となったのは現行制度の問題点。具体的には、投稿者を特定するための情報(発信者情報)の開示手続きが煩雑で、開示情報も現状にそぐわなくなっていた点である。

 中傷された被害者が投稿者に対して投稿の取り消しや損害賠償を求める前の予備的な裁判には現状、一般には2回の裁判が必要でその期間は半年以上を要する。ネットサービスによっては投稿にひも付くIPアドレスを短期間で消去してしまい、そうなると発信者の特定は困難を極める。

発信者情報の開示を求める従来の裁判手続き。ネットサービス運営事業者(コンテンツプロバイダー)と回線事業者(アクセスプロバイダー)に対して順番に訴訟を起こす必要がある
発信者情報の開示を求める従来の裁判手続き。ネットサービス運営事業者(コンテンツプロバイダー)と回線事業者(アクセスプロバイダー)に対して順番に訴訟を起こす必要がある
(出所:総務省)
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 2回の裁判が必要な理由は、中傷投稿があったネットサービスの運営事業者(コンテンツプロバイダー)と、投稿者が使う回線事業者(アクセスプロバイダー)のそれぞれに裁判を起こす必要があるからだ。まずネットサービス運営事業者に対して中傷投稿にひも付くIPアドレスなどの開示を求める訴訟を起こす。この訴訟で開示を勝ち取ってから、IPアドレスなどを使って回線事業者に対して投稿者の氏名や住所などの開示を求める2回めの訴訟を起こす、という手順である。