「お会計はETCでお願いします」――。こう店員に伝えるだけでドライブスルーの支払いを済ませられるシステムの実証が進んでいる。スマートフォンでQRコードをかざすこともなければ、クレジットカードを差し出す必要もない。マイクで店員に注文を依頼したら、あとは商品を受け取るだけ。商品の受け渡し口をクルマで通過するとETC(自動料金収受システム)の車載器が反応して、代金が自動で支払われる。
日本ケンタッキー・フライド・チキン(日本KFC)の相模原中央店(神奈川県相模原市)は2020年8月~11月末までの期間限定でETCによる代金支払いシステムを実証実験している。いわゆる「ETC街中利用」としては国内初の取り組みで、モニターに応募した約430人のETCユーザーが実験に参加した。筆者も体験してみたが、ETCによる支払い自体はスムーズだった。クルマを一時停止して商品を受け取る以外は、高速道路のインターチェンジに出入りするのと変わらない。ETCの車載器は新規格の「ETC2.0」だけでなく、旧規格の「ETC」も使える。
今回の実証では、店舗に設置するETCアンテナなどの機材はOKI(沖電気工業)、ETCの情報管理は中日本高速道路(NEXCO中日本、名古屋市)、ITシステムの構築はメイテツコム(名古屋市)、決済サービスはソニーペイメントサービス(東京・港)が担当した。
2001年に一般利用が始まったETC。街中利用も当初から構想はされていたものの、その用途はこれまで主に高速道路の料金収受にとどまっていた。風向きが変わったのは、2019年11月である。国土交通省が「ETC多目的利用サービス」に関する要綱を取りまとめ民間企業がETCを利用したサービスを開発しやすくなった。
国交省が想定するのは、日本KFC相模原中央店のような店舗のドライブスルーをはじめ、ガソリンスタンド、駐車場などでの料金収受だ。会計時間を短縮できるほか、ドライバーと店員との接触を減らせるため新型コロナウイルス感染症の拡大防止にもつながると期待される。
ETCの車載器は、すでに累計約1億台が市中に出回っている*1。国交省によれば、高速道路を走る車のETC利用率は2020年9月時点で92.9%。ETC決済のユーザー側の準備はほぼ整っている。一方で、ETC決済が非接触ICカードやQRコードによるスマホ決済、クレジットカードと並ぶキャッシュレス決済の有力手段に化けるためには、いくつもの大きなハードルがある。まずは店舗に設置するアンテナやシステムの構築コストの負担だ。
*1 廃棄された台数などを含む数字。