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製造業はデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れているといわれる。
経営者のいう「全体最適」の不明確さという問題に加え、現場技術者の弱体化が要因の1つという指摘がある。
中小企業診断士を中心として製造業でのDX推進担当者やコンサルタントが集まる
「生産革新フォーラム」のメンバーに、製造業DXの実態を話してもらった。
生産革新フォーラム
中小企業診断士や企業の実務担当者などの会員による研究成果の発表・講演を通じて、製造業における最新のシステム化状況や、製造業のシステムを支える新しい情報技術の研究を目的とする団体。東京都中央企業診断士協会中央支部に登録されている。

司会:よく、「個別最適になっていて全体最適ではないのでDXが進まない」といわれますが、なぜそうした状況になるのでしょうか。

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グランド氏――問題は多分、仕事の流れ(業務プロセス)をデザインできるか否かにあると思います。企業の部門をまたいだ仕事の流れを“流れ図”や“回路図”のように図解・理解した上でデザインする。さらに、業務をこう流すべきだから製品(部品)やデータをどこで管理して、それらをITシステムでどう連携させていくか、というように会社全体のDXのグランドデザインは決まる。しかし、こうしたデザインを描く人がいないし、必要性に対する認識がとても薄い。個別の現場の業務知識をいくら積み上げても、グランドデザインは描けません。

グランドデザインを描けない

グランド氏――と言いながら、当社は比較的大型の設備メーカーでフロー図などは得意なはずなのですが、やはり業務全体の“流れ図”が無いのです。

 これまで部門単位で、受注系、設計系、調達系、製造系といろんなシステムを作り、現場を回してきました。これらにまたがるシステムもあるにはあるのですが、基本は30年以上前に作ったもので、つまり当時の業務のフローで今でも回っているわけです。それは基本的にまずいと思っています。

 最近は、当社が典型的な個別受注生産であることが、グランドデザインを描くのを難しくしている要因の1つと考えています。これを「個別性のわな」と呼んでいるのですが、毎回注文を受けて設計して組み立てていると「これは前の仕事と違う特殊性がある」と常に言えてしまう。それでは改善のPDCAサイクルが働かないし、そもそもそういう発想にならない。

 いつも結果オーライになってしまい、データの蓄積や分析に興味を持てない。仕事の流れをデザインの対象とし、運用・保守する職種がない。個別性のわな、仕事の流れに対する無関心、その結果としてのグランドデザインの不在。これらの3つの病が重なって、DXが進んでいない。

 それは当社だけでなく私が付き合っている同業他社もそうだし、さまざまな製造業さんも似たり寄ったりですね。

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ノウハウ氏――個別受注生産でありがちだと思うのは、図面とか生産準備文書の中に、改善が定着しない状況です。標準設計を意識せずに、過去のCAD図面をコピーして手書きで寸法だけ書き直して新図として起こす、とかやってしまうわけです。

 この方法だと、設計作業は効率化できても、例えば機械加工用のNCデータはCAD図面から作り直さなければならないので、後工程の効率は良くならない。

 そこまでひどい状態ではなくても、毎回新図として発行してしまうと、それだけでNCデータの作製も生産準備も一からの作業になります。そういうことを続けて、変更点とその意図をきちんと履歴管理しないままだと、ノウハウが明示的な形で蓄積していきません。業務量も減らず、常に新図の作製に追われる状態が変わらない。設計の外注化が進行しているメーカーや、部品会社のゲストエンジニア頼みのメーカーではなおさらです。