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 通信事業者(キャリア)でありながらベンダーのように通信技術を海外に売る――。そんな新たな潮流が日本発で生まれようとしている。1社は2020年春に本格的に携帯電話サービスを開始したばかりの楽天。もう1社は、1社独占時代から日本の通信を支え続けているNTTだ。期せずして対照的な2社が旧来のキャリアの枠組みを超え、自ら培った通信ネットワークのノウハウを外販するビジネスを志向し始めた。世界で存在感を失っていた日本の通信産業の起死回生の一打となるか。

楽天がRCPで目指す「通信インフラ版AWS」

 「完全仮想化ネットワークによる携帯サービスの開始は序章にすぎない。今秋から順次テストを開始するRCP(Rakuten Communications Platform)こそが肝だ」――。楽天の会長兼社長の三木谷浩史氏は2020年8月に開催した決算会見でこう豪語した。

自らのネットワークのノウハウや機能を外部の通信事業者に売るビジネスを目指す楽天の会長兼社長の三木谷浩史氏
自らのネットワークのノウハウや機能を外部の通信事業者に売るビジネスを目指す楽天の会長兼社長の三木谷浩史氏
(写真:日経クロステック)

 RCPは、楽天が自社サービス用に構築した完全仮想化ネットワークのノウハウや機能を、外部の通信事業者に販売していく取り組みだ。特定ベンダーによる囲い込みから逃げられるOpen RANに基づいたアーキテクチャーをベースに、楽天が自社向けサービスで売りにしている汎用サーバー上に構築可能なソフトウエア基地局や、コアネットワーク用のソフトウエア、運用管理用のシステム(OSS/BSS)などを、スマホのアプリストアのような画面を通じて世界の通信事業者に提供する。

 RCPはいわば通信インフラ版のAWSだ。米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)が自社サービスのために開発したクラウド基盤を、AWSとして外部の利用者に提供して大成功を収めたように、楽天も培ったノウハウをビジネスに生かす考えだ。三木谷氏は「世界の通信事業者のネットワークコストの合計は年30兆〜40兆円。RCPを活用することで少なくともネットワークコストを30%削減できる。世界各地から問い合わせが殺到しており、RCPは大きな可能性がある」とする。

RCPの画面例。アプリストアのような画面を用意する
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RCPの画面例。アプリストアのような画面を用意する
(出所:楽天の会見をキャプチャー)

 楽天の日本国内の携帯電話事業は波乱続きだ。2020年10月に東京都や大阪府、奈良県の一部エリアでKDDIのローミングを終了したことで、サービスがつながりにくくなったという声が利用者から出ている。楽天のネットワークが、世界有数の品質を誇る大手3社に追い付くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 ただ視点を海外に転じると、楽天の携帯電話事業は世界的に大きな注目を集めている。楽天は東京という世界有数の品質が求められる地域で、完全仮想化によるネットワークを運用している点も一面の事実だ。日本国内の携帯電話サービスの勝算はともかく、日本をテストベッドにして世界進出することが楽天の狙いの一つだとすれば、こちらは大成功だろう。

 RCPの潜在顧客となる海外通信事業者の開拓も進んでいる。楽天は2020年9月にスペインの大手通信事業者のテレフォニカと、2020年10月にサウジアラビアの大手通信事業者Saudi Telecom Company (stc)とモバイルネットワーク技術の連携を進める覚書を締結した。

 三木谷氏は2020年11月の決算会見で「RCPのニーズは3分野にまたがっている」と打ち明ける。まずはローカル5G用途だ。ローカル5Gの課題は、現時点で数千万円かかるといわれる機器コストだ。ソフトウエアベースで機器を構成できるRCPを活用することでコストを抑えられる。

 2つ目のニーズは、RCPに用意したさまざまなソフトウエア機能から、例えば課金システムなど一部の機能だけを活用するような用途だ。楽天は2020年5月、RCP強化を目的に、通信事業者向けネットワーク運用システム(OSS)を提供する米Innoeye(イノアイ)を買収すると発表した。三木谷氏は「イノアイは世界数十の携帯電話事業者とビジネスしている。広義のRCPの売り上げはすでに立ち始めている」と続ける。

 最後は楽天と同様、ネットワークすべてをRCPの要素で構築するニーズだ。三木谷氏は「当初RCPは新興国中心のニーズと思っていたが、先進国からも多くの要望が来ている」とする。

 楽天のここ最近の業績は、携帯電話事業の先行投資が響いて赤字が続いている。RCPのビジネスが軌道に乗れば、仮に国内の携帯電話ビジネスの不振が続いたとしても、トータルの事業として十分成り立つ可能性がある。