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 AI(人工知能)が教官となって、高齢者が運転を続けられるようにする――。2021年冬、「AI教習システム」を導入した高齢ドライバー講習が福岡県の自動車教習所で動き出す(図1)。

図1 「AI教習システム」を搭載した教習車がS字カーブを走行
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図1 「AI教習システム」を搭載した教習車がS字カーブを走行
車内には走行ルートなどを表示するモニターやカメラを設置する。ステアリング操作や走行速度なども認識することで、運転技術の評価につなげる。(撮影:日経クロステック)

 19年4月に東京・池袋で発生した車両暴走事故をきっかけに、高齢者による危険運転への社会的関心が高まっている。運転免許を自主返納する動きも進むが、生活の足としてクルマを使用する高齢者にとっては「返納したくてもできない」のが実情だろう。

教習所に押し寄せる高齢者

 こうした動きを受けて警察庁は、事故を未然に防止する手段として、「サポカー限定免許」を22年度にも新設する。これは、自動ブレーキ機能などを備えた安全運転サポート車(サポカー)に限定した免許だ。例えばサポカーでは、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違えを車載センサーが検出し、ブレーキが自動で作動する。運転できる対象車両をサポカーに限定することで、免許の自主返納を検討する高齢者などに新たな選択肢を用意する。

 サポカー限定免許の導入で対応を迫られるのが自動車教習所である。「教習所で講習を受ける高齢者は、現在でも半年を超える順番待ちになるケースがある。教官の人手不足は深刻だ」。南福岡自動車学校を運営するミナミホールディングスのAI教習システム事業部長である等々力広太氏は打ち明けた。

 免許を更新する際に自動車教習所などでの受講が必要な「高齢者講習」の受講者は、19年に約320万人と過去最多を記録した。今後、サポカー限定免許の新設により、教習所で受講する高齢者はさらに増える見込みだ。自動運転技術を応用したAI教官の役割を担うことで、人手不足の現状に歯止めをかけることを目指す。

S字カーブの脱輪をAI教官が指導

 「右後輪が脱輪しそうです。左にハンドルを回しましょう」。ここは南福岡自動車学校の校内コース。教習車がS字カーブに差し掛かると、AI教官がモニター越しに指導の声を発した(動画)。

(撮影:日経クロステック)

 車内モニターに表示された行動履歴には、教習車の左後輪が脱輪した様子が動かぬ証拠として残っていた(図2)。

図2 車内モニターでこれまでの走行軌跡を確認
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図2 車内モニターでこれまでの走行軌跡を確認
AI教習車のこれまでの走行軌跡が点線で表示されている(画像中央)。画像右には、脱輪などの行動結果が羅列される。(出所:ミナミホールディングス)