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 損害保険ジャパンは2021年度にも、通信機能や加速度センサーなどを搭載した多機能ドライブレコーダーを使った個人向け運転支援サービス「DRIVING!」に、自動事故検知の新機能を組み込む。機械学習による数理モデルを採用することで9割以上の精度で事故を検知できるようにする。精度を高くすることで、事故後の対応サービスなどを迅速に提供できるようにしていく。

 機械学習を使った自動事故検知技術は損保ジャパンと、グループ会社でアナリティクス事業などを手掛けるSOMPOリスクマネジメントが2020年5月から開発に着手し、2020年11月までに開発を完了した。東京大学大学院情報理工学系研究科の山西健司教授の技術支援を受けた。今後はDRIVING!向けのシステムに機能を実装して、2021年度中にサービスとして提供していく予定だ。

損害保険ジャパンの個人向け運転支援サービス「DRIVING!」で利用されている通信機能付き多機能ドライブレコーダー
損害保険ジャパンの個人向け運転支援サービス「DRIVING!」で利用されている通信機能付き多機能ドライブレコーダー
(出所:損害保険ジャパン)
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 DRIVING!ではこれまでもドライブレコーダーで取得した自動車の走行データなどを基に、事故を自動検知する機能を提供してきた。現行の機能は「衝撃度がある値を超えたら事故と判定する」といったルールをあらかじめ設定しておき検知するようにしている。自動車の衝突実験を繰り返し、ルールを見直すなどして事故の検知精度を高めてきたが、一定の割合で「ドライブレコーダーが外れた」「自動車が段差を越えるときに衝撃を受けた」といった状況を事故と誤検知していた。

 そこで「機械学習による数理モデルをベースにした自動検知の仕組みを開発することで、事故の検知精度を高めることを目指した」と、損害保険ジャパンの大久保雄太リテール商品業務部Next Retail Project副長は説明する。

事故の自動判定が状況把握など後続サービスの重要な起点に

 損保ジャパンが事故の自動検知の精度向上に取り組む背景には、事故後のサービスの存在がある。ドライブレコーダーが事故を検知すると、損保ジャパンの担当者や、サービスを利用する顧客が事前に登録しておいた家族に自動通知するといったサービスを提供している他、事故が発生すると綜合警備保障(ALSOK)のガードマンが現場に急行して、安全確保や救急車の手配などをするサービスも提供している。

 このうち損保ジャパン側では、ドライブレコーダーで事故を自動検知すると、事故対応に当たる部門が自動検知したドライブレコーダーの走行データなどを遠隔で確認できるようにしていて、事故発生時の初動対応に役立てている。事故対応に当たる部門の担当者はGPS(全地球測位システム)の情報を基に事故の発生地点を見極めたり、衝突前後のドライブレコーダーの画像や速度の推移データなどを基に事故の状況を把握したりできるようにしている。

 ドライブレコーダーは携帯電話網を使った通信機能を備えている。ドライブレコーダーが取得したGPSの情報や速度データ、衝突前の画像データなどを、DRIVING!のシステムに送れるようにしている。さらに、損保ジャパンで事故対応に当たる部門の担当者が利用する「責任割合算定システム」ともデータを連携。事故対応の担当者はドライブレコーダーから送られてきたGPSの情報や速度データ、衝突前の画像データなどを、責任割合算定システムで確認できるようにしている。

 現場の状況を事故受付担当者が顧客から電話で聞き出す場合、数十分かかってしまうことが多いという。事故に遭って気が動転している顧客から事故の状況を把握するのに時間がかかるためだ。しかし一連のデータ活用の仕組みを整えることで、事故対応の担当者は5分程度で現場の状況を把握できるようにしている。責任割合算定システムではこの他、走行データなどを基に、事故の責任割合の自動算出もしていて、示談交渉をはじめとする事故解決をスムーズに進められるようにしている。

事故発生時にドライブレコーダーの走行データなどをリモートで把握できる損害保険ジャパンの社内システム「責任割合算定システム」の画面例
事故発生時にドライブレコーダーの走行データなどをリモートで把握できる損害保険ジャパンの社内システム「責任割合算定システム」の画面例
(出所:損害保険ジャパン)
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 こうした一連のサービスの起点になるのがドライブレコーダーを使った事故の自動検知機能だ。「万が一顧客が事故に遭ったときにスムーズに事故対応をしていくためには、誤検知を極力抑えて事故を自動検知する精度を高めていくことが欠かせない」。損害保険ジャパンの岡根俊介リテール商品業務部Next Retail Project特命課長は今回の新機能開発についてこう説明する。

データの異常検知の指標を数理モデルに組み込む

 今回開発した機械学習による自動事故検知技術では、主に2つの工夫を凝らした。一連の開発によってこれまでの技術を上回る「95%以上の精度で事故の自動判定ができるようになった」と大久保副長は成果を語る。

 最初の工夫は、「ドライブレコーダーで取得した走行データは事故を表すものなのか、それとも事故と誤検知されるものなのか」といった異常を検知する指標を、数理モデルに組み込んだことである。東京大学大学院の山西教授の支援を受けて進めた。

 具体的には、平均的なデータとどれくらいかけ離れているかを評価する統計学の指標「マハラノビス距離」を数理モデルの変数に当たる特徴量の1つとして組み込んだ。このマハラノビス距離を、走行データや、「この走行データは事故発生時のものかどうか」を示す事故データと合わせて学習用のデータにして数理モデルを開発していった。事故データを含むことで教師あり学習をしている。

損害保険ジャパンが自動事故判定用の数理モデル開発していく上でのポイント
損害保険ジャパンが自動事故判定用の数理モデル開発していく上でのポイント
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